本研究の目的は、1950~1960年代にかけての新自由主義思想とヨーロッパ統合の関連を一次資料に依拠して明らかにすることである。本研究で主な分析対象となるのは、フランス出身の欧州官僚として知られているロベール・マルジョランである。従来、ケインズ主義者として知られるマルジョランであるが、フラン切り下げ問題やEEC通貨協力などの通貨金融問題を議論する中では、新自由主義的な姿勢を見せる人物である。彼は、1950年代後半から1960年代にかけて、EEC委員会で活躍し、同委員会においてEECの発展を促す重要な提案を幾つか行っている。それらの諸提案の内容や意図を明らかにしていくことで、ケインズ主義(フランスの場合はディリジスム)全盛期の加盟国を、より市場経済寄りに変革させようとしていたことが明らかにできると考えられるのである。 本年度(最終年度)は、これまでの研究成果を包括し、マルジョランの活動が、①1958年のフランスの経済改革であるリュエフ計画に、EECを通じてどのように働きかけたのかを明らかにすること、②EEC委員会で行った経済通貨同盟提案、および経済政策の調和に対する姿勢の変化を通じて、マルジョランの主張する経済政策のあり方が、1950年代後半と1960年代では、変化した過程を明らかにした。また、こうした変化の背景にドゴール政権の成立があることを指摘した。 一連の分析から、マルジョランはフランス経済の積極的な市場経済化を望みながらも、ドゴールが出現したことにより、既存のフランスの政策により妥協的な形に、一連の提案を調整する必要が生じたという点で限界があったことが明らかにされた。以上について、二つの研究会報告を通じて研究成果を発表した。
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