研究課題/領域番号 |
17K18123
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
荒井 堅太 東海大学, 理学部, 講師 (60728062)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ジセレニド / フォールディング / 抗酸化剤 / タンパク質 / 神経変性疾患 |
研究実績の概要 |
タンパク質が正しい立体構造にフォールディングする際、システイン残基間での酸化的ジスルフィド架橋が必須である。この反応は小胞体内でProtein disulfide isomerase(PDI)が促進するが、小胞体内の活性酸素(窒素)種(ROS or RNS)の除去システムに異常をきたすと、PDI 活性中心のチオール基が酸化的に修飾されて失活、ひいてはミスフォールディングを助長する。ミスフォールド体は致命的な神経変性疾患の原因となると考えられており、有効な医薬製剤開発が急がれる。本研究では、ROS・RNS 除去および失活PDI の還元的再活性化の両者を促す両機能性試薬の開発を目指すことにした。 初年度は、①:酸化還元中心として環状ジセレニド骨格を有する化合物の効率的な合成ルートの開拓、②:合成した化合物の抗酸化活性の評価、③:合成した化合物のフォールディング触媒活性の評価、以上3点について検討した。①については、研究実施計画に記載した合成戦略に基づいて研究を進め、計画していた合成化合物のシリーズを良好な収率で滞りなく得ることができた。②についても、研究実施計画にもとづき、ROSの一種である過酸化水素の触媒的還元反応を行い、化合物の抗酸化酵素様の触媒活性に関する知見を得た。合成した化合物を触媒量添加し、過酸化水素の還元速度を見積もることで、化合物群の触媒能を比較検討することができた。③については、研究実施計画には記載されていないが、①および②が順調に進んだため、検討項目を追加した。合成した化合物のフォールディング触媒活性をリボヌクレアーゼAをモデル基質として比較したところ、すべてのジセレニド化合物がPDI様の触媒メカニズムによってフォールディング反応を効率よく促進することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
化合物の合成が滞りなく行うことができたため。 これにより、当初の研究計画にはなかった「化合物のフォールディング触媒能の評価」を行うことができた。これに関して、予想以上に興味深い結果を蓄積することができ、研究成果を国際学術誌に投稿し、受理された。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は、研究計画調書にも記載してある通り、「失活PDIの再活性化実験」を行う。失活PDIの モデルとして、PDI活性中心のチオール(SH)基をS-ニトロシル化したS-ニトロソPDI(SNO-PDI) を用いて実験を行う。PDI は本来、in vitro においても変性-還元タンパク質中のSH 基をジスルフィド(SS)架橋に変換し、さらにSH-SS交換反応を触媒することで、迅速に基質タンパク質のフォールディング反応を促進する。そこでまず、(a):SNO-PDI に対し、環状ジセレニド(SeSe)化合物を還元活性化したジセレノール(2SeH)体を混合しSNO-PDI → PDIの還元反応進行率を電気泳動法にて検証する。ジセレノール(2SeH)は非常に高い還元能力を持つため、SNO基を還元的にSH基へと変換するものと予想される。(b):次に変性-還元タンパク質を共存させ、フォールド体へのフォールディング速度と収率を見積もり、間接的にPDI の酵素活性回復率を見積もる。これにより、合成したジセレニド化合物によるSNO-PDI の触媒的再活性化能力を検証できるものと予想している。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際会議参加にともなう海外出張旅費として使用する予定であったが、学内の海外出張助成金に申請したところ、採択され、これによって必要経費を賄うことが出来たため。 生じた未使用分は、次年度の消耗品購入に充てる予定である。
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備考 |
後者については本研究課題から派生した研究成果である。
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