本研究は、血液や尿等の採取が難しい焼死事例を想定し、メタンフェタミンを投与したマウスの大腿骨を高温曝露させ、大腿骨中のメタンフェタミン及び代謝物アンフェタミン濃度をLC-MS/MSを用いて定量分析し、分析試料としての骨の有用性を調べるものである。今年度はHE染色を用いた骨の形態学的解析及び骨中覚せい剤濃度の測定を行った。マウスにメタンフェタミンを1日1回、7日間腹腔内投与した。メタンフェタミン投与量は1、5または10mg/kgとした。7日目の投与後120分に左右大腿骨を採取した。一方の大腿骨は染色のため脱灰操作を行い、もう一方はマッフル炉内で加熱温度を100、300または500℃、加熱時間を10または30分に設定し高温曝露させ、その後大腿骨を粉砕し、薬物抽出後定量分析を行った。染色結果より、100℃で10分または30分加熱した場合、細胞核、細胞質ともに大きな変性は見られなかった。300℃で加熱した場合、組織の破壊が見られ、加熱時間が長くなると染色性の低下が見られた。500℃で加熱した場合、ほぼ組織が破壊された。大腿骨中のメタンフェタミン濃度は加熱温度が高いほど減少し、1mg/kgと10mg/kg投与群における300℃10分加熱群の濃度は100℃30分加熱群より有意に減少した。また、100℃で加熱した時、加熱時間が長い程濃度が高くなる傾向があり、10mg/kg投与群における100℃30分加熱群の大腿骨中のメタンフェタミン濃度は、100℃10分加熱群より有意に増加した。大腿骨中のアンフェタミン濃度は、全ての投与群において加熱温度が高く加熱時間が長い程減少した。本研究では、高温曝露した骨から覚せい剤を検出することが可能であった。特に、覚せい剤の分解温度以上に曝露させても検出できたことは新たな知見である。体液採取が難しい焼死事例において骨は有効な分析試料となることが示唆された。
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