研究課題/領域番号 |
17K18138
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研究機関 | 東京女子体育大学 |
研究代表者 |
佐藤 晋也 東京女子体育大学, 体育学部, 准教授 (90435214)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 運動発生 / 映像観察 / 器械運動 / コツ / 映像呈示 |
研究実績の概要 |
本研究の課題は、体育・スポーツ指導者が運動指導を展開していく際に、映像情報を効果的に学習者に呈示していくための方法を確立すること、及びその根拠を発生論的運動学の立場から示していくことである。昨今話題となっているICT教育の発展に伴い、今後の体育における実技指導のあり方が問われていくことになるが、そこで映像呈示がどのような効果をもたらしていくかを検証していくことがねらいである。 29年度は、研究初年度であり、研究代表者が担当する器械運動の授業等を題材として、事例となる資料収集及び得られたビデオ映像の観察、また30年度に実施予定の授業プログラム作成のための考察を中心に行った。 自己の動きを映像化して見るという行為の中では、「欠点及び目標像との比較」という点に限っては多くの被験者によってなされてはいることは明らかとなった。しかしそれは、動感化現象としてのコツ獲得以前の段階としてのものであり、映像観察を運動発生に結びつけるには、単に運動の外形的特徴を捉えるだけでは十分とはいえない。授業等において撮影された映像を単純に呈示されても、その程度の利用の仕方しかできない学習者が多いということが大きな課題としてあげられた。 運動が発生へと向かっていく過程では、「過去(直前を含む)」に行なわれた動きと、「今」行なわれた動きの違いを把握すること、つまり動感比較が不可欠となる。そしてこれから実施しようとする「未来」の動きの先構成と、さらにその動きの動感反省の繰り返しによって、目標とされる動感図式が形成されていくものである。運動学習において映像呈示および観察が効果をもつには、そのような動感作用の補助として「映像化された自分の動きを見る」ことが位置付けられていなかればならないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、当初の計画通り、事例収集及び分析の対象となるビデオ撮影等ができたことに加え、実際の運動学習場面において見られた学習者の運動の変化と動感意識の変化について、インタビューを通した交信分析により明らかにすることができた。そのため、資料の収集に関しては、概ね順調に進められたと思われる。ただ、本研究の分析方法は、自然科学的手法とは異なり、運動学習事例の意味や価値を現象学的に分析していくため、発表に至る厳密な部分までの分析にはまだ時間がかかっているのが現状である。そのため29年度の成果はまだ論文発表としてはまとめられていないが、研究成果の一部は8月に開催される日本体育学会において「運動学習における映像の観察が動感発生に与える意味に関する運動学的考察」というタイトルで発表申し込みを済ませている。これらは30年度に発表していくことになるため、研究成果の公表という点に限っては、やや遅れていることになる。なお、今年度に実施できなかった他の事例収集は30年度も継続して行っていく予定である。また30年度に実施予定である指導実践については、既に始まっている30年度の授業内において、映像呈示方法に関する実験のいくつかは既に実施されている。
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今後の研究の推進方策 |
30年度はこれまで明らかとなった映像観察の問題を解決しながら、授業プログラムに映像観察実習をどのように取り入れていくかを検討し、それに基づいた指導実践をしていくこととなる。また昨年度に引き続き、映像情報が学習者の動感にどのように作用するかという本質的な問いについても検討を続けていくこととなる。また、そのようにして得られた知見が、器械運動に限ったものなのか、あるいは他の運動領域にも用いることができるものなのかという点についても考察の幅を広げていく予定である。 研究の成果としては、実践事例等を専門学会で発表することに加え、2年間の研究成果を論文としてまとめていく予定である。
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