本研究の課題は、体育・スポーツ指導者が運動指導を展開していく際に、映像情報を効果的に学習者に呈示していくための方法を確立すること、及びその根拠を発生論的運動学の立場から示し、指導現場において効果的な映像機器の用い方を示唆していこうとしたものである。昨今話題となっているICT教育の発展に伴い、今後の体育における実技指導のあり方が問われていくことになるが、そこで映像の呈示という指導方法がどのような効果をもたらしていくかを検証した。 この検証は研究代表者が担当する器械運動の授業等を題材として実施された。その一連の検証から示唆されたことは、自己の動きを映像化して見るという行為において「欠点及び目標像との比較」という点に限っては多くの被験者によってなされてはいるものの、それは動感化現象としてのコツ獲得以前の段階としてのものであり、映像観察を運動発生に結びつけ具体的な方法の必要性があるということである。したがって、運動学習において映像呈示及び観察が効果をもつには、そのような視点で「映像化された自分の動きを見る」ことが位置付けられていなかればならない。 そのためには、1)適切な映像情報の選択、2)映像情報の呈示のタイミング、3)学習者に予め与えておく映像観察の視点、を明確にした活用方法が求められることになり、その視点を踏まえた上での映像情報の活用に意味が認められることになる。なお、この内容に関連した研究成果の一部は30年度に開催された日本体育学会第69回大会において発表し、現在論文としてまとめている段階である。 学校体育においてタブレット等を用いたICT教育が流行していく中、機器やアプリケーションの発展は目覚ましいものがあるが、運動指導者はその情報が学習者の運動発生、つまり「コツの獲得」にどのように働くものかという検証を今後も積み重ねていかなければならない。
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