乳の加熱に伴いカゼインミセル表面に存在するκ-カゼインはβ-ラクトグロブリンとSS結合を形成しミセルから解離する。また、加熱時にホエータンパク質(β-ラクトグロブリン)を加えるとその解離量は増加する。さらに、加熱時のpHを塩基性側に変化させることでその解離量は顕著に増加し、それに伴いミセルの凝乳(加熱凝乳)が生じる。この凝乳したカードがチーズ様の物性を示すことから、新たなチーズ製法として応用できる可能性がある。 本研究では、加熱凝乳機構を明らかにするとともに、その凝乳作用を活かした新たなチーズの製造法を見出すことを目指した。 その結果、ホエータンパク質の添加濃度およびpHの条件を組合せ変動させることで、ミセルからのκ-カゼインの脱離量を制御することが可能となり、κ-カゼインが70%程度脱離することで凝乳が生じることを見出した。 また、凝乳機構を明らかにするため、ミセルの表面性状の挙動を解析した。その結果、カゼインミセル表面に存在するκ-カゼインが脱離することで、ミセル表面の負電荷が減少し表面疎水性度が上昇することが示唆され、それにより、ミセル間の静電的反発が失い疎水性相互作用が強まることで凝乳が生じると推察された。さらに、凝乳が生じることでカルシウムイオン量も減少することから、カルシウムも凝乳に関与することが示唆された。 次に、得られたカードの酸性化および脱水処理を行いチーズの製造を試みた。その結果、チーズ様のストリング性は得られなかったものの、塩基性のカードを酸性化することに成功し、凝乳酵素を使用しないチーズ製造が可能であることが示された。
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