心房細動は心房が不規則に興奮し、興奮波が無秩序に心室へ伝わることで不整拍動、動悸やめまいが起こる不整脈である。心房細動では、心房内において血栓が形成されると心筋梗塞や脳梗塞など重篤な合併症の原因となることから、発症早期の治療・対策が必要とされている。1998年に心房細動開始の引き金となる「異所性の電気的興奮」の90%が肺静脈血管壁に存在する心筋層で発生していることが報告された。肺静脈心筋における異所性の電気的興奮の発生メカニズムを解明し、心房細動を合併する病態の肺静脈を調べることが心房細動発症メカニズムのさらなる解明と新たな治療ターゲットの探索につながると考えられる。本年度は、モルモット肺静脈から心筋細胞を単離し、隣接する心房筋や心室筋と細胞形態および細胞内Ca2+動態を比較した。肺静脈心筋には筋小胞体が豊富に存在し、その量や分布は心房筋や心室筋と比較して違いは見られなかった。一方で、細胞膜が陥入してできるT管は、心室筋細胞では細胞中心部まで形成されているが肺静脈心筋には存在しなかった。Ca2+ transient(活動電位が発生する際にみられるCa2+の動き)で起こるCa2+濃度上昇は、心室筋では細胞膜直下でも細胞内部でも同時にみられたが、心房筋や肺静脈心筋では最初に細胞膜直下で起こり、その後細胞内部に広がった。Ca2+ waveやspark(活動電位を伴わない細胞内局所でみられるCa2+の動き)は、心室筋、心房筋、肺静脈心筋のすべてで観察されたが、肺静脈心筋ではsparkに続いてCa2+ transientが発生した。T管を持たないモルモット肺静脈心筋細胞では、Ca2+の伝播は心房心筋細胞と類似していることを示している。また、肺静脈心筋細胞の自発的なCa2+濃度上昇には、Ca2+ sparkが関与しているようである。
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