研究課題/領域番号 |
17K18147
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
中山 実 東邦大学, 理学部, 博士研究員 (40449236)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ショウジョウバエ / アセリルコリン受容体 / シナプス間隙 / エンドサイトーシス |
研究実績の概要 |
神経伝達物質受容体のシナプスへの集積は、正常なシナプス機能の発現に重要な役割を果たす。シナプスにおける細胞内足場タンパク質のみならず、シナプス間隙に局在する細胞外タンパク質によっても、受容体のシナプス局在が制御を受けていることがわかっている。私たちは、ショウジョウバエにおけるシナプス間隙タンパク質Hikaru genki (Hig)が中枢アセチルコリン受容体(AchR)の局在制御を行っていることを示してきた。しかしながら、具体的にどのようにHigがAchRの局在を制御しているかは不明であった。 これまでの研究で、hig機能喪失型突然変異体ではDα6とDα7 AchRサブユニットのシナプス局在レベルの低下が見られることがわかっていた。興味深いことに、hig変異体におけるDα6局在レベルの低下は、Dα5機能喪失型変異体によって回復する。Dα5, Dα6, Dα7は、いずれも脊椎動物のα7受容体と相同性が高いα7様サブユニットである。Higがどのようにこれらα7様受容体を制御しているかを明らかにすることを本研究の目的とした。リアルタイムPCRを用いてDα6の発現量を調べたところ、Dα5変異体において顕著な増加は見られなかった。このため、Dα5変異が他の受容体サブユニットの発現レベルを代償的に上昇させるということはなく、他の理由でDα6シナプス局在レベルが上昇すると考えられた。本年度の研究において、hig変異体脳においてDα5を強制発現させると、Dα5の異常なエンドサイトーシスが引き起こされることを見出した。同様の現象はDα6およびDα7の強制発現では起こらず、HigはDα5のエンドサイトーシスを制御することでAchRシナプス局在レベルを調節していると考えられた。本研究により、シナプス間隙タンパク質によるAchR局在制御メカニズムの一端が明らかになることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、シナプス間隙タンパク質Higによるアセチルコリン受容体(AchR)局在制御メカニズムの解明を主題としている。これまでに、hig機能喪失型突然変異体では、Dα6とDα7 AchRサブユニットのシナプス局在レベルの低下が見られていた。また、hig変異体におけるDα6のシナプス局在レベルを回復させるサプレッサー変異としてDα5変異体が得られていた。Dα5, Dα6, Dα7は、いずれも脊椎動物のα7受容体と相同性の高いサブユニットであり、これらの間での相同性も高い。本研究は、これらサブユニットの局在制御の解明を目的としているため、これらの間で交差しない特異抗体が必要である。これまでに用いていた抗体の特異性を、それぞれのNull変異体および過剰発現個体を用いた染色により確認した結果、Dα5抗体およびDα7抗体は、いずれもDα5とDα7両方を認識することがわかった。このためそれぞれを特異的に認識する抗体を新たに作製するために、これまでと異なる部位のペプチドを抗原として再度抗体作製を行った。その結果、各サブユニットと交差しない特異抗体をそれぞれ得ることに成功した。これにより、3種類のサブユニットを染め分けることが可能となった。また本年度においては、hig変異体下でDα5を強制発現させるとDα5が異常なエンドサイトーシスを引き起こすことを見出しており、このことはHigを介したAchR局在制御メカニズムを解明する上で重要な知見を与えると考えている。各α7様受容体の特異抗体を用いた解析により以上の点の詳細を明らかにし、平成30年度中に本研究内容を論文にまとめる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
3種類のα7様AchRサブユニット(Dα5, Dα6, Dα7)のうち、Dα5のみがHig非存在下で異常なエンドサイトーシスを引き起こすことが本年度の研究で明らかになった。hig変異体脳では、Dα5, Dα6, Dα7いずれのサブユニットもシナプス局在レベルが低下している。しかしながら、免疫組織学的解析から、HigはDα6とは直接相互作用しないことを示唆するデータが得られた。このため、Dα6はHigによって間接的に制御を受けていると考えられる。アセチルコリン受容体はホモまたはヘテロ5量体を形成し、Dα5, Dα6, Dα7もヘテロ複合体を形成することが示唆されている。このため、hig変異体では、Dα5のエンドサイトーシスに伴い、ヘテロ複合体を形成するDα6の局在レベルが低下すると考えられる。以上の点を明らかにするために、今後の研究予定としては免疫共沈降実験を主に行っていく。2016年に報告した論文では、Dα6の免疫沈降によりHigが共沈降することを示していたが、これはDα5/ Dα6複合体を介したものであった可能性がある。そこで、Dα5変異体サンプルにおいて同様のDα6免疫沈降実験を行うことで、Higの共沈降に変化が見られるかどうかを調べる。また、強制発現させたDα6はhig変異体においても正常に局在することがわかっている。強制発現Dα6は多くがホモ5量体であると考えられ、Hig非存在下でも正常にシナプス局在できるということは、Dα6を制御する未知の因子が存在することを示唆する。そこで、Dα6免疫沈降サンプルを用いてLC-MS/MSショットガン解析を行うことで、Dα6と相互作用する未知因子の探索を行う。以上により、α7様受容体の局在制御メカニズムとその分子基盤を明らかにしていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画および使用計画では、三次元解析用ソフトウェアIMARISを購入する予定だったが、専用PCや定量用ソフトウェアを含むと、当初予定していた金額では不足し、購入を見送ったため使用残額が生じた。次年度予算と合わせることで、必要となれば本年度における本ソフトウェアの購入が可能となるため、次年度への繰り越しを行う。
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