研究課題/領域番号 |
17K18148
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
鈴木 商信 東邦大学, 理学部, 博士研究員 (30532105)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | バイオテクノロジー / 有機化学 / 脳・神経 / 光化学 / ケミカルバイオロジー / ケージド化合物 |
研究実績の概要 |
本研究は、光分解性保護基であるBhc基の8位にオレフィンを伸展させることで、Bhc基よりも長波長で光分解する保護基の開発を行うものである。今年度も、Bhc基の8位にアルデヒド基を導入したケージド酢酸を基本化合物として、Wittig反応によりオレフィンを伸展させたケージド化合物の合成を進めた。合成した化合物の紫外-可視吸収スペクトル及び450 nm光での光分解の解析の結果、確かに吸収極大は20 nm以上長波長シフトする化合物は得られ、Bhc基ではなし得なかった450 nmの光分解を引き起こす保護基は得られたものの、前年度と同様に光分解効率の高い化合物は得られなかった。特に、8-(2-thienyl ethenyl)Bhc-ケージド酢酸は、450 nmの光照射により明確にcis-trans異性化を引き起こすことがわかり、一部が光分解を起こして酢酸を放出していることが判明した。すなわち、光分解性保護基励起時のエネルギーが光異性化に使われていることが予想され、本研究で得られるケージド化合物の光分解効率が低い理由の一端が示された。 閉環構造と開環構造がそれぞれの吸収に対応する光照射により異性化されるフォトクロミズムと光分解性保護基を組み合わせた化合物に関しても、N-methyl indolium化合物との反応で容易に候補化合物を合成することはできるが、前年度以上の研究の進展、すなわち長波長側の光照射により光異性化または光分解する化合物を得ることはできなかった。 幸いなことに、候補化合物の合成に関しては、市販のWittig試薬やN-methyl indolium化合物を用いて、良好な収率で目的のオレフィンが伸展した化合物を得られていることから、引き続き長波長かつ良好な光分解効率を持つ光分解性保護基の探索を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2年間の研究により、Bhc基よりも長波長で光分解可能な光分解性保護基を得るという目的は達成でき、特にBhc基では不可能だった450 nmで光分解する保護基を複数得ることに成功した。しかし、いずれの化合物も光分解効率が悪かった。 8-(2-thienyl ethenyl)Bhc-ケージド酢酸は、光照射前は全てtrans体であるが、例えば450 nm光照射3分間の時点において、trans:cisの割合が60:38程度に光異性化し、1.5%程度が光分解して酢酸を放出していることがわかった。前年度に報告した8-(4-phenyl butadienyl)Bhc-ケージド酢酸などの化合物も再度HPLCにて解析した結果、一部ではあるが確かに光異性化していることがわかり、本研究で得られるケージド化合物の光分解効率が低い原因の一つが光異性化にあることが推定された。一方でN-methyl indolium化合物と8-ホルミルBhc基との反応で得られる化合物に関して、開環型のtrans体は550 nm付近に吸収極大を持つが、550 nm光を照射しても光異性化や光分解を引き起こさなかった。光異性化や光分解反応を引き起こすかどうかの境界が、光照射波長に依存するのか、それともオレフィンの置換基によるのか、現在までに結論は出ていない状況である。 実験手法に関しては、8-ホルミルBhc-ケージド酢酸と市販のWittig試薬またはN-methyl indolium化合物を反応させることで、オレフィンが伸展したケージド酢酸の候補化合物を良好な収率で合成でき、HPLCでの解析に必要な光分解後のアルコール体も一段階の反応で容易に得られている。候補化合物の合成、光化学特性の調査、光照射産物のHPLCでの解析といった一連の実験手法を確立できたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
Bhc基の8位にオレフィンを伸展させることで新たな光分解性保護基を開発する手法を確立し、450 nmで光分解する複数の新規光分解性保護基を得られたことは、十分な新規性があり、報告に値する研究成果と考えられる。今後は、本研究の手法で光分解効率の高い光分解性保護基を得られるのかどうかを調べ、得られる場合はより光分解効率の高い光分解性保護基を見つけ出すことを目標に研究を進める。可能であれば、より長波長側の光、例えば500 nm光で分解するような保護基を開発することも目標としたい。 今年度の研究により、光異性化が光分解効率を下げている一つの原因となることが示唆されたが、現在までに本研究で得た知見では光異性化を抑制するような保護基を設計するのは難しく、また過去の文献を合わせても光分解効率が高くかつ長波長で光分解を引き起こすような光分解性保護基を合理的に設計することは困難である。本研究では、光分解性保護基の候補化合物に関しては容易に合成できるため、より複雑な構造を持つオレフィンまで手を広げて候補化合物を増やし、それらの光反応をHPLCにて解析する予定である。得られた化合物の光反応特性の結果を積み重ねることによって、合理的な設計のための新たな知見が得られるかもしれないため、その結果を随時考察し、新たに合成する化合物にフィードバックさせて行きたいと考えている。もちろん、興味深い知見が得られた場合は、合わせて論文にする予定である。 フォトクロミズムと光分解を組み合わせた光分解性保護基に関する研究は、開環型のtrans体がいかなる光反応も見せなかったため、今年度も引き続き開発は行うが、研究テーマとしては前者の研究テーマに焦点を当てて研究を進めて行きたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、8-ホルミルBhc-ケージドルシフェリンを元にオレフィンを伸展させた粗生成物を数多く作り、光照射後のルシフェリンの発光から、対応する波長(例えば450 nm, 500 nm等)で光反応する保護基をスクリーニングする予定であった。しかし、この実験で得られる結果は定性的である。上述の通り、候補化合物の合成から光照射反応のHPLCでの解析という一連の研究手法は確立できており、HPLCでの解析では光反応の定量的な知見まで得ることが可能であるため、ケージドルシフェリンを使った大規模スクリーニングの手法はメリットが少なく、見送った。その結果、ルシフェリン-ルシフェラーゼアッセイにかかる費用等が次年度に繰り越しとなった。また、有機合成自体は順調に進行しているため、当初予定していた研究計画よりも少ない予算で遂行することができた。 来年度は、伸展させるオレフィンの種類を増やし、更にオレフィンの構造自体もより複雑なものまで合成したいと考えている。当初の計画よりも有機合成にかかる費用が相当増えると予想される。また、研究期間の最終年度であるため、得られた光分解性保護基がケージド化合物に応用できるかどうかも調べ、最終的には、それらを細胞実験に応用したいと考えている。それら一連の実験費用に、繰り越した研究費を使用する予定である。また、学会発表や論文発表にかかる費用にも研究費を充当する。
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備考 |
本研究の基礎となった研究成果をChemical Communications誌に報告した。その論文に関するプレスリリースである。
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