研究実績の概要 |
本研究では、埋没土壌(古土壌)でも安定に存在するペリレンキノン(PQ)色素の化学構造解析と定量法の開発を行うとともに、土壌中でのPQ色素の分布ならびに安定化機構を解明することを目的とし、下記の結果を得ることができた。 1)DHPQ(4,9-dihydroxypelyrene-3,10-quinone)がPQ色素の主要成分であることを示した。その他のPQとして、モノカルボキシDHPQなどの数種のDHPQ誘導体が含まれることも明らかにした。 2)紫外可視吸光スペクトルを用いたDHPQ単体の含量とDHPQ誘導体含量の同時定量法を確立した。本法にて世界中の様々な表層土壌におけるPQ色素の含量を検討した結果、全土壌でDHPQは検出され、高いところでは100mg/kg程度であった。一方、DHPQ誘導体含量はDHPQ含量の10%以下であったが、PQ色素の生産者のひとつとされる糸状菌の菌核ではDHPQ誘導体含量が高かった。 3)土壌断面におけるPQ色素の垂直分布を検討した結果、鹿児島県の累積火山灰土壌では、約6400年前に表層であった埋没層の方が現表層より高いPQ含量を示した。また、埋没層内でも同色素含量に変動が認められた。この結果より、古環境指標物質としてのPQ色素の有効性が示唆された。 4)逐次抽出を用いてPQ色素の存在形態を検討した結果、PQ色素は腐植酸画分に約80%、ヒューミン画分に約20%分布することを示した。また、PQ色素の多くはピロリン酸可溶のAlおよびFeとともに安定化する可能性を示した。 以上、本研究では、PQ色素の土壌中での分布を明らかにし、長期間に渡ってPQ色素が安定すること、PQ色素の安定には腐植複合体のAlやFeが関係することを明らかにした。今後は土壌中で極めて安定な有機物構造とされる縮合芳香族炭素に占めるPQ色素の寄与などについて検討する予定である。
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