研究課題/領域番号 |
17K18156
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
長野 伸彦 日本大学, 医学部, 助教 (90794701)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | チオレドキシン / 新生児慢性肺障害 / バイオマーカー / 早産児 / 血清TRX-1 |
研究実績の概要 |
【背景】新生児慢性肺疾患(CLD)や未熟児網膜症(ROP)は早産児の重篤な合併症である。CLD、ROPの原因として高濃度酸素投与による酸化ストレスがある。一方でチオレドキシン(TRX)は、分子内に酸化還元活性を有するSH基を持つ抗酸化酵素で、酸化ストレス/活性酸素からの保護作用を示し、成人領域では、酸化ストレスマーカーとして有用であるとされている。しかし、血清TRX-1と早産児合併症との関連について検討を行った報告はない。【目的】血清TRX-1と新生児疾患・合併症との関連性を明らかにすることを目的とした。【方法】埼玉医科大学総合医療センターに入院した早産児25名(平均在胎期間:26週、平均出生体重812g)の出生時と日齢14の残血清を用いて、ELISA法でTRX-1の測定を行った。CLD、ROPとTRX-1との関連性について後方視的に検討した。【結果】TRX-1は非CLD群と比較して、CLD群で出生時に有意に低値であった(p<0.01)。日齢14ではTRX-1はCLD群で有意に増加していたが、クレアチニン(Cr)で補正したTRX-1/ Crは有意差を認めなかった(p=0.97)。日齢14のCrが非CLD群と比較してCLD群で有意に高値であった(p<0.01)。ROP群と非ROP群では差を認めなかった。【結論】早産児における日齢0のTRX-1/Cr比はCLD群で有意に低く、バイオマーカーとして有用である可能性がある。今後更なる検討と症例の蓄積が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1)新生仔期高濃度酸素暴露による肺傷害モデル動物(新生児慢性肺疾患(CLD)モデル)を確立する。→新生仔期高濃度酸素暴露により、新生仔マウスにCLD児に認められる肺胞発達遅延と同様の変化が肺病理組織検査で認められることを確認した。再現性も高く、新生仔期高濃度酸素暴露による肺傷害モデル動物はCLDモデルとして有用であると考えられた。 2)野生型、TRX Tgマウスの新生仔期に高濃度酸素を暴露し、両者の表現型の違いを比較する。→野生型マウスは新生仔期高濃度酸素暴露により、mean linear intercept増加および二次中隔数減少を示し(肺胞発達遅延)、これは日齢14まで続いた。一方、高濃度酸素暴露されたTRX-Tgマウスでは日齢4、14共にWTと比較 してこれら肺胞発達の遅延を抑制した。また、日齢14においてWTに比しTRX-Tgでは炎症性マーカーであるIL-6 、MCP-1、CXCL2の肺内mRNA発現が有意に減少し、 マクロファージの遊走を阻害した。この結果からTRXはCLDに対する新たな治療薬になる可能性が示唆された。 3)ヒト血清を用いて、新生児慢性肺障害とチオレドキシンの関連性を明らかにした。抗酸化酵素であるチオレドキシンが出生時に高値であると、新生児慢性肺障害への進展が抑えられる可能性が示唆された。新生仔マウスを用いたウエスタンブロットを用いたマクロファージ遊走阻止因子(MIF)の蛋白発現量の解析が一定の見解が得られず、時間を要した。MIFはウエスタンブロットによる解析ではなく、野生型とTRX TgマウスでmRNA発現の差を確認することとした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は将来の臨床応用に向けて、CLDマウスモデルに対するヒト組み換えチオレドキシン蛋白の有効性を検証し、臨床応用を目指した橋渡し研究を行う。 1)TRX投与により高濃度酸素性肺傷害を予防・治療し、CLDに対する新規予防・治療法の開発を行う。出生した新生仔マウスにヒトTRX蛋白を静脈内投与する。その後高濃度酸素を暴露し、TRX投与の高濃度酸素性肺傷害に対する予防・治療効果を検討する。「TRX投与による抗酸化作用増強」というCLDに対する新規治療法の開発が期待される。 2)血清TRX-1・TRX mRNA・蛋白発現量の測定により、予後を早期に予測し、再入院の頻度を軽減させることが期待される。TRX-1、TRX mRNAまたは蛋白の血中または気管支肺胞洗浄液中濃度を定期的に測定する。これにより患児の呼吸器予後を早期に予測できることが期待される。高リスク群として、より綿密なフォローアップを行うことができ、NICU退院後の再入院の頻度を軽減させることができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
マクロファージ遊走阻止因子のウエスタンブロットを用いた蛋白発現量の解析に当初の予定より時間を要し、平成29年度に行う予定であった炎症性サイトカインのmRNA解析の1部を平成30年度に施行した。平成30年度にウエスタンブロットを用いたマクロファージ遊走阻止因子の蛋白発現量解析で一定の見解が得られないため、マクロファージ遊走阻止因子をmRNAの発現量を用いて平成31年度に解析することとした。
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