研究課題/領域番号 |
17K18168
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
坂本 拓弥 筑波大学, 体育系, 助教 (30734298)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 言語 / 身体 / メルロ=ポンティ / 体育 / 授業 |
研究実績の概要 |
本研究期間の中間年にあたる本年度は、前年度の検討を踏まえ、メルロ=ポンティを中心とする現象学的言語論の視点から、体育教師の指導言語を1つの身体的行為として捉え直すことを試みた。メルロ=ポンティによれば、われわれの発話行為は、「身体的所作」として理解されなければならない。つまり、それは単なる思惟の表象ではないということが明らかとなった。このことは、われわれが日常的に発話する際に、その都度頭の中に文章をつくり、それを音読しているわけではないという事実に端的に示される。そしてこのような彼の言語観は、従来の体育における指導言語観への適切な批判として機能する。なぜなら、これまでの指導言語研究においては、体育教師の発する指導言語を因果論的に分析してきており、そのような言語観こそが、メルロ=ポンティの批判する当のものだからである。特に、指導言語をよりよい授業評価を引き出すための記号として捉えてきた従来の多くの研究に対して、そのような記号的な言語観を新たな意味の創造という観点から否定している彼の議論(特に『知覚の現象学』『世界の散文』と『シーニュ』)は、それらの限界をより明確にし、さらには身体的行為としての発話という新たな視点を提示している。また、この意味の創造という点については、体育授業で同じ指導言語を用いても、今日と明日では異なる結果が生じうるという経験的事実を説明する際にも、重要な手がかりになることが示されたと言える。加えて、以上のメルロ=ポンティによる現象学的な言語論は、同時に次の展望を拓くと考えられた。すなわちそれは、体育教師の指導言語実践が彼/彼女らの身体に担われているという理解である。これは、体育教師論において見落とされてきた認識であり、それゆえ本研究の意義の1つになることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、今年度はメルロ=ポンティを中心に、現象学的な立場から論じられた言語論を広く検討することができ、研究全体を順調に進めることができた。特に、そのような言語論の特徴として、言語と身体との関係や記号的な言語観に対する批判的な視点を明確にできたことは、次年度の研究遂行に向けた足場を提供するものであると言える。また、その成果を国際スポーツ哲学会第46回大会で発表した際に海外の研究者から向けられた批判についても、より普遍的な理論構築に向けて有益なものであった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究期間の最終年度となる次年度は、今年度までの研究成果に基づき、当初の計画通りより具体的な体育授業場面を想定した議論を展開していきたい。特に、〈ふれる〉という事象の検討については、当初予定していた竹内らの議論に加えて、今年度の検討において見出されてきたバトラーらのメルロ=ポンティへの言及にも配慮しながら、より内容の豊かな理論の構築を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定より物品が安価で入手できたため若干の残金が出た。 次年度において、物品等の購入にあて、適正に使用する。
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