本研究の目的は、19 世紀末から20 世紀前半の時期を対象とする大西洋横断的な政治思想史叙述への貢献を念頭に、文化シオニズムを軸とした初期多文化主義論をめぐるトランスアトランティックな思想交流・知的共鳴関係の内実を明らかにすることである。 本研究の最終年度として、昨年度までの分析や成果に基づき、本年度はアウトプットを産出することに注力した。その結果、主に二つの重要な実績が得られた。 ①当初対象としてきたアルフレッド・ジマーン、ホラス・カレンらに加えて前年度から分析を行ってきたランドルフ・ボーンの文化多元主義を俎上に載せ、より包括的なトランスアトランティック思想を第15回日韓(韓日)政治思想学会(於ソウル大学、2019 年7月)において報告した。この報告論文は、その後改訂し、韓国政治思想学会の学会誌に韓国語訳で掲載されることとなった(2020 年度中に刊行予定)。 ②本研究の成果、および本研究を遂行する過程で実行したアーカイヴ調査(オックスフォード大学ボードリアン図書館などにおいて)を基に、政治思想史分野における著名な査読誌の一つであるHistory of European Ideasに論文を公刊した。これに先立って、2019年9月にダラム大学(イギリス)における国際ワークショップにオンライン参加し、フィードバックを得た。 これらによって、トランスアトランティックさらにはグローバルな思想史枠組みの観点から、様々な民族文化間の共存を目指すエスノナショナルな多元主義(初期多文化主義論)の交流を明確に描き出すことができ、本研究の目的を果たすことができた。
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