商業メディアの企業性と公共性について憲法学的に考察する本研究は、研究の最終年度にあたる2019年度においては、日本における新聞に対する独占禁止法の適用および商業放送の積極的役割について検討する予定であった。 しかし、新聞と独占禁止法の関係については、NHKがインターネット同時配信を開始することとも関連して、インターネット空間における民間放送と公共放送の競争関係について検討対象を変更することにした。また、商業放送の積極的役割については、経済競争ではなく言論競争を基本原理とする放送法の憲法上の位置づけについて文化国家論との関連で検討することにした。 まず、インターネット空間における民間放送と公共放送の競争関係については、放送を経済的に把握するEU法と、放送を文化的に把握するドイツ法を比較することを通して研究を行った。その結果として、公共放送が従来の放送空間を踏み越えインターネット空間に進出することで、他の民間放送や新聞企業との間で公正な競争関係を阻害していること、このことが放送の自由の解釈や公共放送の存在理由に関する理解を問い直すものとなっていることを明らかにした。 また、放送法の文化国家論上の位置づけについては、憲法25条を文化的生存権として解釈する議論を検討することにした。文化国家論は、戦後直後、1990年代の国立大学法人化、2000年代以降の文化助成との関連で議論されてきた。それぞれを検討することによって、国家が文化を保護する義務、および市民が保護を請求する権利について、憲法25条に位置づけることで、文化を形成する放送もその一部として把握する可能性について明らかにした。
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