研究課題/領域番号 |
17K18181
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小池 洋平 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 助手 (50779121)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 奴隷的拘束からの自由 / アメリカ合衆国憲法修正第13条 / 日本国憲法第18条 / 奴隷制度 / 反奴隷制論 / 奴隷制擁護論 / アメリカ憲法史 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,奴隷制を廃止したアメリ合衆国憲法修正第13条(以下では単に「修正第13条」と記す)の制定に至るまでの反奴隷制論及び奴隷制擁護論の理論的根拠を分析することによって,これまでの日本の憲法学において抽象的に理解されるに留まってきた,いわゆる「奴隷的拘束からの自由」がいかなる権利として形成されてきたのかを実証的に明らかにすることにある。 2017年度は,上記の研究目的を達成するための基礎作業として反奴隷制論と奴隷制擁護論の一次史料の収集を行い,それらの整理と分析を進めた。その際,両立場の根本的な違いを解明すべく,特にアメリカの共和主義と結びついた自由労働観念という当時の思想的背景と,家父長制的な保護の制度としての奴隷制への評価という2点を対立軸に据えて検討した。そして,特にGeorge Fitzhughの奴隷制擁護論においては,子どもや女性といった自由競争社会には不適合であるとする当時の人間観・社会観と,黒人を劣った存在とする当時の認識が結びついていたことを確認した。また,彼の擁護論において,愛情に満ちた奴隷主によって奴隷は保護される存在であり,かつ,自己の財産たる奴隷の価値の維持・向上というインセンティブによって奴隷主は保護の主体へと駆り立てられるという認識が根底に横たわっていた。このことを踏まえ,修正第13条がこういった保護の側面を持つとされた奴隷制を廃止したことの意義を検討するという,本研究の目的を遂行するための次の理論的課題を抽出することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2017年度の奴隷制擁護論の理論的基盤を明らかにするという当初の課題は,上記の通り,黒人劣等視と保護の論理の関係性において確認することができた。 もっとも,それらを検討する中で,反奴隷制論側が修正第13条制定後に解放奴隷たちをどのように取り扱うべきと考えていたのか,という新たな論点も浮かび上がってきた。そのため,研究開始時に想定していなかった課題への応答する必要性が明らかになった。 この新たな課題を検討するための基礎的な史料については,本年度の海外史料調査によって収集することができた。そして,この収集した資料の整理・分析にも着手している。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は,当初の計画通り,反奴隷制論と奴隷制擁護論の理論的対立を検討し,それらをとりまとめて修正第13条が保障しようとした「奴隷的拘束からの自由」の意義を明らかにする。 その際,19世紀中頃のアメリカ立憲主義が前提とした自由の主体と,反奴隷制論が奴隷制を廃止することで目指した自由の主体の創出という2点を中心に検討を進めていく。 具体的には,修正第13条制定直後の反奴隷制論と奴隷制擁護論の対立点を分析し,そこで何が目指されていたのか,どのような限界が意識されていたのかを解明し,本研究全体の成果を公表したい。
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