研究課題/領域番号 |
17K18184
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
安井 清峰 早稲田大学, 地域・地域間研究機構, 研究助手 (60756302)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 国際紛争 / 選挙 / 世論 / 政治体制 / Rally Effect / 観衆費用 / 国連平和維持活動 / 犠牲者敏感性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,国内政治における選挙アカウンタビリティが国家の対外行動に与える影響の究明である.伝統的な国際政治学では,軍事力や経済力等に基づく国家間のパワーバランスが対外行動を規定する主要因であると考えられてきた.近年メディアで再び取り沙汰されている「地政学」や「戦略論」にまつわる言説にも,依然その傾向が強く見られる.だが,冷戦終結前後の民主化の進展とあいまって,現代の国際政治学では,国家間の政治体制や選挙制度の差異を対象とする比較政治学と融合しながら,国内政治要因を焦点とする研究が主要な位置を占めている.実際の国際社会においても,「ポピュリズム」の台頭が叫ばれる中,国内世論や選挙が国家の対外政策決定に与える影響の甚大さに対する認識が極めて高まっている. 以上の背景を踏まえ,今年度は以下の通り研究を実施した.第1に,国際紛争に臨む政治指導者に対する国内世論の支持率の急激な上昇,すなわち“Rally Effect”の発生メカニズムを,政府に対する野党の支持態度から説明するゲーム理論分析を継続した.昨年度に成果を論文にまとめ英文査読誌へ投稿しており,本年度はそのR&R対応を行った.具体的には,各プレイヤーの効用関数の設定について,先行研究と整合性を取る形で理論を精緻化した.また,シミュレーション分析を追加で行い,フォーマル・モデルの分析結果を数値例により具現化した. 第2に,当初の関心から派生した研究として,政治体制の差異が国連平和維持活動(PKO)からの撤退に与える影響に関する研究も継続した.政府のアカウンタビリティに着目し,PKO要員に犠牲者が発生した場合,民主制の方が非民主制に比してミッションから撤退しやすいという理論予測のもとに分析を行ったところ,同予測が統計的に支持されると同時に,非民主主義国もまた犠牲者敏感性を有しているという反直感的な知見も得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上述の研究概要のうち,Rally効果の研究はR&R対応を終えており,また,PKO要員派遣国の犠牲者敏感性に関する研究も8月頃には国際学術誌に投稿できるよう準備を進めており,いずれの論文も今年度中に国際学術誌において公刊できる見込みである. 一方,本研究課題のもう1つの柱である,選挙サイクルが国家の紛争行動に与える2つの実証分析については若干遅れが生じている.第1は紛争勃発に関するものであり,国政選挙の近接性が政府指導者による国際紛争の開始に与える影響である.昨年度までの分析で,大統領制の国家においては,大統領選挙の約6ヶ月前までは選挙が近づくにつれ紛争イニシエートの可能性が高まるが,議院内閣制ではその効果が見られないことが分かっていた.そこで本年度は,なぜ大統領制と議院内閣制でそのような差異が生じるのか,特に選挙日程が固定されているか否かという点に着目しながら理論分析を再検討しているが,一貫した理論モデルの構築に時間を要している. また,第2は紛争終結に関する分析であり,上記とは逆に,次の国政選挙が遠ければ遠いほど政府指導者は国際紛争から撤退しやすいことを既刊の論文で明らかにしている.過去の政治現象に対する有権者の記憶や近視眼性により,指導者が観衆費用を被らずに済むからである.同論文が事例分析であったため,その知見の一般性を高めるため,現在は計量分析に取り組んでいるが紛争当事国のうち,どの国家が撤退したのかに関するデータセットの構築にやや困難が伴っている.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2019年度は,本研究課題の集大成として,上述のRally効果に関する研究,選挙サイクルと国家の紛争行動に関する研究,PKOの犠牲者敏感性とアカウンタビリティに関する研究という3つの研究プロジェクト全てにおいて研究成果を出版することを一義的な目的として研究活動を推進する.合わせて,それぞれの研究プロジェクトについて国際・国内学会報告申請も行っており,アウトリーチに注力する. また,各研究プロジェクトを推進するなかで,研究テーマの拡張や新たな分析手法の導入など,将来的な課題が多く見えてきており,学会のみならず小規模な研究セミナーやワークショップの場も積極的に利用しながら,次年度の研究課題申請へつなげる.
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次年度使用額が生じた理由 |
一部物品の購入計画の変更による.
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