研究課題/領域番号 |
17K18188
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研究機関 | 東京工科大学 |
研究代表者 |
加納 徹 東京工科大学, メディア学部, 助教 (40781620)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 計測 / X線CT / 非破壊検査 |
研究実績の概要 |
電子デバイスをX線CTで撮影すると、金属によってX線強度が飽和し、メタルアーチファクトと呼ばれる激しいノイズが発生する。本研究は、電子デバイスの高精度非破壊検査を実現するための、多軸X線CTの開発を目的としたものである。初年度は主として多軸X線CTの再構成アルゴリズムに関する検討を行った。多軸回転の実装によって、投影情報を大幅に増加させることができるが、それは撮影時間と再構成計算に要する時間の著しい増加にもつながる。このため、再構成に必要な条件を満たしながら、金属の飽和を回避する投影方向を探索する、効率的な姿勢制御アルゴリズムが必要となる。 まず、基盤を模擬した三次元数値ファントムを作成し、シミュレーション上で二軸投影実験を行った。その結果、精度良く再構成計算を行うためには、各軸を連続的に変化させること、および投影データの角度分布に偏りを持たせないことが必要であることが明らかになった。 次に、金属による飽和を回避するための二軸姿勢制御の最適化アルゴリズムを提案した。一軸は被写体を設置するステージの回転軸であり、通常のX線CTと同様に360度回転させる。もう一軸を、ステージの回転角に対して鉛直方向に定義し、投影毎に軸角度を微小範囲内で動かし、X線強度の飽和領域が少ない投影データを探索しながら収集していく。このようにして収集した飽和領域の少ない投影データを逆投影することで、メタルアーチファクト発生を抑制するというものである。 提案手法の効果をシミュレーション上で確認した結果、姿勢制御の最適化アルゴリズムを適用することで、メタルアーチファクトの発生強度を大きく低減できることが明らかになった。一方で、発生強度は抑えられているものの、二軸回転によってメタルアーチファクトは三次元的に広がることも確認された。今後、姿勢制御の最適化を進めることで、従来よりも精密な検査技術の確立が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、実際に二軸回転機構を組み立て、簡単な環境下での投影実験を行う予定であった。しかし、X線CTの再構成に必要なレベルの精密な回転角制御の実装には至らず、実際には多軸再構成アルゴリズムの開発と検証のみに留まっている。機構の開発が遅延した分、次年度に予定していた姿勢制御の最適化についても前倒しで取り組むことで、進捗状況の補填を行った。
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今後の研究の推進方策 |
高精度非破壊検査のための多軸X線CT制御の最適化を進め、投影・再構成フローを確立させる。具体的には、下記2点の事項について検討を行う。 (1) 初年度に提案した姿勢制御だけでは、被写体の初期配置に応じて、メタルアーチファクト低減性能に差が出てくる可能性がある。そこで、事前に一軸回転の投影処理を施し、飽和領域の増減を観察することで、どのような被写体の初期配置が望ましいかを提案する技術を実装する。本技術により、効率的かつ再現性のある多軸投影が可能となる。 (2) 多軸投影に最適化によって強度の弱まったメタルアーチファクトを低減させるためには、先行研究として提案した、X線のエネルギースペクトルを考慮した逐次近似計算によるアルゴリズムを適用する必要があり、膨大な計算量と計算時間が必要となる。この問題を解決するため、逐次近似計算が必要な領域とそうでない領域を自動選択し、計算を高速化させる技術についても検討を進める。 なお、X線CTに組み込む多軸機構は、精密な制御が要求されるため、今後は業者と連携し、実装を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由は、下記2点である。 (1) 研究の進捗がやや遅れ、国際会議への参加および論文投稿が当該年度内に間に合わなかったため。 (2) 購入を計画していた物品(グラフィックボード)を、交付額からは購入不可と判断し、低価格帯のものに変更したため。 次年度は、学会への参加費・旅費と論文掲載費が主な研究経費の使用用途である。次年度使用額の一部は、多軸機構開発に際して業者への協力依頼にかかる費用に充てることを予定している。
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