研究課題/領域番号 |
17K18190
|
研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
上 英明 神奈川大学, 外国語学部, 助教 (80779728)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | キューバ外交 / アメリカ外交 / 国際関係史 / 移民史 / 冷戦史 / 南北アメリカ / エスニックロビー |
研究実績の概要 |
本研究は研究蓄積が著しく乏しい1959年革命以後の米・キューバ関係について、歴史的な観点から検証を進めるものである。とりわけ米・キューバ政府間対話が始まった1974年から冷戦が終結した1990 年代に焦点をあて、「冷戦終結にもかかわらず、なぜ国交の回復が遅れたのか」という問いについて考察を深めている。 より具体的には、以下の三つの点について論考を進めている。(1)米・キューバ両国政府の対話の試みがなぜ1980 年代、1990 年代において関係の改善につながらなかったのか。中南米・アフリカ地域における対立だけでなく、米国国内におけるエスニック・ロビーの動向に着目する。その際、(2)対外政策と移民政治の連関について明らかにする。人の移動による米国における「国益」の変化を追い、マイアミにおける政治活動の登場がどこまで米国外交の展開を左右したのかを詳述する。加えて、(3)キューバ政府による米国社会、とりわけ在米キューバ人社会への働きかけがどのように行われていたのかを問う。革命政権が反革命勢力の政治的台頭に見せた反応を明らかにし、近年注目を集める中南米冷戦研究において、本研究をその極めて重要な一事例として位置づける。 初年度においては、まずまずの研究成果を残せたと考えている。とりわけ、キューバへの史料調査を2度実施することができたこと、およびこれまでの研究成果をまとめた英語単著(Diplomacy Meets Migration: U.S. Relations with Cuba during the Cold War)の出版に目処が着いたことを挙げたい。前者については、想像以上の量の史料が入手できたことを喜んでいる。また、後者については、キューバへの第一次調査を機に、原稿修正の機会が認められた。これにより、論考の完成度を高めることも可能になっている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度においては概ね当初の予定通りに進めることができている。想定外の困難に直面したものの、予算配分の修正などを行った結果、満足する結果が得られたと考えている。 今年度の最大の目標は、キューバへの史料調査を実施することであった。ハバナの国際政治研究所のスポンサーを得ることに苦慮しつつも、キューバ大使館の力を借りるなどして、ようやく9月に調査渡航が実現した。ところが、予定通りにキューバ外務省史料館で米・キューバ関係に関する史料調査を開始したものの、滞在2週目にハリケーン・イルマに襲われてしまった。 この災害で、キューバでは10名の死者を出すなど、他のカリブ海諸国と同様、破滅的な打撃を蒙っている。滞在先は暴風雨の中で浸水し、電気も水道もガスもなく、外出も許されなかった。復旧が進んだ後も、外務省史料館は浸水被害のために閉館していたため、代わりにキューバ歴史研究所という別の機関で調査を継続することになった。ここでは刊行史料を集めるなどしている。 このように9月の調査が中断されたため、3月には再びキューバに渡航している。予算の年度調整が認められたことを受け、2週間の調査を行った。幸い、天候にも恵まれ、順調に史料調査およびインタビューなどを予定通りに進めることができた。また、キューバ歴史研究所やホセ・マルティ国立図書館などでも二次資料を意欲的に収集している。 史料調査の他にも、6月上旬には日本ラテンアメリカ学会で、同月下旬には米国外交史学会で、それぞれ研究成果を報告し、国内外の研究者との意見交換を行っている。また単著の刊行が確実となってからは、英文原稿の修正にも力を入れてきた。これについては最新の史料収集の成果などを踏まえ、米・キューバ関係の議論をより深めることができたのではないかと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
キューバ外務省史料館では米・キューバ関係資料コレクションを参照し、とくに「二国問題」ファイルと「移民」ファイルを中心に、一次史料の収集・整理・読解を行っている。今後もこの研究を進めていきたい。2年目にあたっては、集めた史料の読解を基に、論文原稿の準備も進めたい。とくに1990年代のキューバ移民政策に注目し、キューバ外交の実証的分析を進め、海外の査読ジャーナルへの投稿を目指したい。 なお、2年目にあたっては、以上に加えてアメリカ合衆国における史料調査を進めたい。キューバ側で史料の収集を読み進めた結果、米側からの分析を行う必要を感じたからである。幸い数年前に申請した機密解除請求の結果が手許に届いたことから、1990年代の米・キューバ関係に関し、米側で新たな史料の収集が可能になったことも確認している。 したがって、今後は米国においても史料調査を刊行し、1990年代の米・キューバ関係を双方向的な視点から分析していきたい。9月にはキューバではなく、米国で3週間程度の史料調査を敢行し、必要に応じて3月にキューバでの調査も検討することとする。ただし、論文の執筆などに時間を取られることも考えられ、翌年度に先延ばしする可能性もある。 学会発表に関しては、国際ラテンアメリカ学会の年次大会で発表することを目指し、パネルを申し込んでいた。ところが、大会主催側の都合により、報告者ではなく、討論者に役割を変えられてしまった。残念ではあるが、研鑽を積む好機と捉えつつ、各国の研究者との議論を深めることとしたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度末にキューバへの渡航調査を計画する際、費用の不足を想定し、予算の増額(10万円)を申請したことが影響している。繰り越し分には、8月末に計画する旅費や図書の購入に充てたい。
|