近代的な教育システムが19世紀初頭に環大西洋圏で確立するなかで新たな「女性性」が定着していった過程を明らかにすることを目的とした本プロジェクトの最終年度にあたる2019年度は、研究実施計画にしたがって、(1)2019年8月に米国ニューヨーク州のトロイ公共図書館等において、同年11月に英国リバプールの中央図書館等において資料調査を実施し、(2)研究成果として研究論文1本を執筆した。調査に関しては、研究計画のなかでもとりわけ19世紀前半英国の教育者ジョセフ・ランカスターの教育思想のアメリカへの受容を明らかにするための資料の収集に重点をしぼっておこなった。ランカスター式の教育法が特にニューヨークなどの大西洋岸都市部において、公教育推進運動の中で積極的に取り入れられた過程を詳しく検討しつつ、公教育の中に女子教育を含むことの是非の議論の中で、女子を含めた公教育の可能性としてランカスター式教授法が考えられていたことを論じた。また、同時代のニューヨーク州で活動していた女子教育者のエマ・ウィラードについての調査を進めることで、特にアメリカにおいては19世紀半ばの女子教育において、「女性性」が教育目的の中心に置かれるようになった過程が明らかになった。以上のように、本研究の最終年度においても資料収集について順調に計画を進めることができた。とりわけ、ランカスターの教育システムのアメリカにおける受容についてニューヨークにおいて資料を入手できたことが意義の大きいものであった。このようにして収集した資料をもとに鶴見大学紀要にランカスター式のモニトリアル・システムの女子教育への導入の可能性ついての研究論文を執筆したことは、19世紀アメリカにおける女子教育の普及について検討するためにはランカスター式教授法について考察する必要があることが明らかになったという点で、最終年度の研究成果として満足なものと評価できる。
|