本研究では複数の下肢関節運動の組み合わせにおける運動協調性を定量化する新たな解析手法を開発し,健常者と膝前十字靱帯(ACL)損傷者における運動の協調性の違いとその要因となる筋活動特性を明らかにすることで,ACL損傷に関する神経筋制御機構を解明し,新たな損傷予防プログラムを開発することを目的としている. 本年度は昨年度に検証した3つの関節運動に加え別の組み合わせに関する協調性の定量化を試み,健常者9名とACL損傷者3名で検討を行った.3次元動作解析システムと表面筋電計を用いて,開眼および閉眼時における片脚スクワット動作の計測を行った.関節運動の組み合わせはACL損傷に関連する股関節内外転,股関節屈曲伸展,膝関節屈曲伸展とし,導出筋は大殿筋,中殿筋,大腿直筋,大腿二頭筋,前脛骨筋,腓腹筋とした.得られた関節運動の組み合わせに対し運動協調性の定量化を行い,非線形解析にて時系列データの周期性を解析した.スクワット動作における膝関節運動を屈曲局面と伸展局面に分け,各局面における積分筋電位と平均筋電位を求めた.また大腿二頭筋と,大腿直筋および腓腹筋の同時収縮活動比(H/Q比,H/G比)を求めた.健常者を健常群,ACL損傷者の損傷側をACL損傷群,反対側を非損傷群とし,開眼条件,閉眼条件でそれぞれの値を比較した. その結果,3群とも閉眼時に複合関節運動の周期性が低値を示した.非損傷群は伸展屈曲両局面において他の2群よりも高い前脛骨筋活動を示し,また閉眼時は他の2群よりも低いH/Q比を示した. これらの結果から,閉眼時に股関節内外転,股関節屈曲伸展,膝関節屈曲伸展運動の組み合わせで動作の協調性が低下することが明らかとなった.またACL損傷者は非損傷側で前脛骨筋優位な動作様式をとることや不安定な動作時にH/Q比が低下するため,これらのことがACL損傷リスクとなる可能性あることが示された.
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