研究課題/領域番号 |
17K18217
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
中島 江梨香 中部大学, 工学部, 講師 (70708932)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | グリーンケミストリー / 有機合成 / フロー不斉合成 / 触媒充填カラム / 不均一合成 / PCME |
研究実績の概要 |
化学製品は人々の生活環境を大きく向上させたが、一方で化学製品の製造プロセス中に起こる事故、問題によって生活環境が脅かされてきた。国内外の化学薬品製造工場の大爆発事故、更には反応器及びプラント内の清掃時に排出される廃液等の環境負荷の低減、プラント稼動時に使用するエネルギー・資源の削減(特に反応器内の温度、撹拌制御)、環境(E-factor及びPMI)に配慮したプロセス合成の開発が急務である。また、少ステップで、安全に、安価に、効率よく、高純度の有機物質をプロセス合成することは、合成化学者に課せられた重大な使命であるが、これまでは合成化学者の視点での研究がほとんどで、抜本的な解決策は未だ十分には開発されていない。 本研究は、環境に優しく、高効率で、安全に禁忌物質のプロセス合成を目指すものである。有機化学に工学の再現性ある制御技術を融合させ、マイクロフローリアクターを用いた閉鎖系での持続可能なプロセス合成方法の開発を行う。本研究では、フローシステムを用いて、1)毒性または爆発性の高い化学物質を用いた危険な反応を安全に、2)99%以上の選択性で、3)工程数を簡略化し、4)反応後の精製が不必要で、5)反応後のカラムの交換や洗浄を要さず、繰り返し使用可能なカラムリアクターを用い、6)低温反応を室温で、7)パラレル型で大規模合成が可能なプロセスの確立を目的とする。即ち、本研究は従前の有機合成を一変させる新しい有機合成法を提供する。 初年度は、反応後のカラムの交換や洗浄を要さず、繰り返し使用可能な有機不斉触媒充填カラムを用いた不均一系不斉合成フロー法を確立し、通常低温で行う反応を、室温(温度制御無)で、かつ毒性または爆発性の高い化学物質を用いた危険な反応を安全に、高い反応収率と光学選択性を得ることに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
有機触媒は、高機能触媒を安価に作ることが出来、不斉合成も可能で、毒性も殆ど0で、グリーンケミストリーという分野で注目されている触媒である。しかしながら、有機触媒は10-30 mol%程度と大量の触媒を反応に要し、有機溶媒に対する溶解性の低さ故に、DMSO等の特殊な有機溶媒を用いる必要がある。しかし、申請者は、基質に対する有機触媒のモル比を0.01%、重量比もこれら触媒の1/10以下まで減少させることに成功した(Chem. Asian J,2017)。 更にこの研究成果を発展させ、有機不斉触媒充填カラムを用いた不均一系不斉合成フロー法を確立し、通常低温で行う反応を、室温(温度制御無)で、高い反応収率と光学選択性を得ることに成功し、世界的なジャーナルに投稿した(Chem. Eur. J. 2018)。有機触媒は、遷移触媒と異なり、触媒の活性を失うことがない事、有機溶媒に対する溶解性の低さを利用して、本研究では有機触媒をカラムに充填し、触媒を取り出すことなく繰り返し使用する事を可能にした。この繰り返し使用可能で安全な有機不斉触媒を充填したカラムを用いた不均一系不斉合成フロー法は、Aldol反応だけでなく、Mannich反応、o-nitroso aldol反応でも高い反応収率と化学選択性を得ることに成功している。更に、このフロー合成法の持続可能性と環境性を評価するため、不均一充填カラムフロー合成のための触媒の繰り返し使用または連続使用中の触媒性能を評価するために、触媒質量効率の新しい評価基準(PCME:Process catalyst mass efficiency) を提案した。フラスコ反応では多量の有機触媒量を必要とすることが欠点であったが、この不均一系触媒充填カラムフロー合成を用いることで、生産時の触媒質量効率を上げる事ができ、有機触媒の新たな利用可能性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度で確立した触媒充填カラムを用いた不均一系不斉合成フロー法を連続多段フロー反応に発展させる。その為には、1)一般的に流速を上げるとその系内にかかる圧力が上昇する、2)連続で多段反応を連結させて行う場合、1つの反応系にかかる背圧を配慮し、そのあとに続く反応系は背圧をそれより高くする必要がある、など化学反応とは別にエンジニア的問題も考慮する必要がある。そこで、有機触媒をスルーポア、メソポアのサイズを調整したシリカモノリス(高い通液性と空隙率により背圧が通常の充填剤よりも格段に低い)の表面に蒸着させ、有機不斉触媒担持シリカモノリスカラムの作成を試みる。更に、アミノ酸塩触媒をシリカにイオン結合させる方法(Chem. Commun. 2009)を応用し、プロリンとシリカモノリスをイオン結合させ、プロリン担持シリカモノリスカラムの作成し、有機不斉触媒担持シリカモノリスカラムの作成も試みる。 他方で、反応性が高いことで知られているが、毒性や爆発性の為、十分には研究開発が進められていなかったニトロソ化合物、ジイミド及びその誘導体、シアン化水素、アジ化水素、アゾ化合物、ジアゾ化合物、ヒドラジン、ポリニトロベンゼン等の禁忌物質を用いた、不均一系触媒充填カラム合成フロー法を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていくにつれ、当初申請時に購入を検討していた精密フロー合成で最も重要な精密マイクロフローポンプに課題(脈動、送液停止)が見つかり、その問題を解決するのに時間を有した。これまでの基質を用いたフロー合成では問題なかったが、禁忌物質を用いる合成では、安全で精密にフロー合成を行う必要があり、絶対に解決しなければならない問題であった。 当初の予定より装置の導入が半年以上遅れたため、初年度の予算を次年度に繰り越して、研究を進めることとした。
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