研究課題/領域番号 |
17K18221
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
小林 純子 南山大学, 外国語学部, 准教授 (00611534)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 文化実践 / 社会関係 / 芸術文化教育 / 余暇 |
研究実績の概要 |
平成29年度に実施した研究では、教育的余暇としてのAPG(パリ市の実施する芸術文化教育プログラム)と学校知識との関係を明らかにするため、まずはフランスの学校知識の社会学の先行研究整理を行った。これらの研究業績にもとづき、第一にフランスの学校知識の社会学は、教育内容への着目という点では独自の発展を遂げていた部分もあるが、イギリスの新しい教育社会学の影響を受けて1980年代にカリキュラムということばを使うようになったことを明らかにした。第二に、フランスの学校における芸術文化教育が「デッサン」から、より広い実践を含む「造形芸術」への変遷を遂げたこと、その背景には一方で教育政策や文化政策が、より多くの人々の文化実践や知識へのアクセスという意味での民主化の観念を共有していたこと、他方でその実現方法については考え方に相違が見られたことを明らかにした。第三に、1990年代頃から自治体や地方行政による芸術文化教育政策が著しく発展したことを明らかにした。 そのうえで、本研究はフランスにおける現行の芸術文化教育のカリキュラムと教育時間数を小学校と中学校の双方において確認した。他の教科と比較して芸術文化教育に関する教科の割合は極めて小さい。しかし同時に文化行政との協働によってフランスの芸術文化教育は教師のみならずアーティストや芸術文化関連の専門家を担い手とする施策を促進している。また自治体レベルではAPGなどいわゆる放課後や余暇の時間に教師とは異なるアニマトゥールやアーティストが芸術文化教育に関わっている。こうしたプログラムは学校教育の時間に行われていることもあり、その重なりは芸術文化の知識や実践との新たな関わり方を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究は、先行研究整理や資料収集を中心に行う計画であったため、8月の現地資料収集をはじめ、おおむね順調に進行した。とりわけ政令や法律などの公式文書はインターネット上で入手できるものが多く、教育政策や文化政策についても資料の入手は比較的順調に進んでいる。調査の過程で子どもの文化研究や、余暇と教育の関係に関する新たな研究資料を入手しているため、当初想定していた範囲を超えて分析枠組みや理論枠組みが広がっている。また子どもの文化実践に限らず一般に文化実践の社会学には理論レベルにおいても調査レベルにおいても多くの研究業績が残されており、これらと平成30年度に実施を予定している現地調査をどのように関連づけていくのかが課題となっている。またAPGの枠組みの中で具体的にどの文化機関がどの学校や余暇センターとプログラムを実施しているのかは、現地調査の聞き取りを必要とするため、この点については調査の準備にとどまった。
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今後の研究の推進方策 |
現地の長期滞在の機会を活かして聞き取り調査とプログラムへの参加を試みる。関連する教育政策または文化政策の管轄部局、APGに参加しているアニマトゥール、教員、学芸員、アーティスト、子どもの親を対象として聞き取りを行う。また人口の社会的特徴の異なる複数の地域でいくつかのプログラムに参加し、プログラムがどのように進行するのか観察を行う。プログラムは毎年新学期にあたる9月から開始されるため、現段階では調査の準備として、許可の申請や質問票の作成、予備調査などを行っている。調査を順調に進めるため、すでに文化実践や子どもを対象とした研究を行い社会的・文化的な文脈を熟知しているフランスの研究者や専門家からアドバイスを受けている。また調査の設計を修正しつつ将来的に日本との比較研究を行うための検討も行っている。調査結果をどのように分析していくのかについても検討を進めており、関連する研究会やセミナーへの参加、調査の打ち合わせを重ねていく予定である。
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