研究課題/領域番号 |
17K18221
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
小林 純子 南山大学, 外国語学部, 准教授 (00611534)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 芸術文化教育 / 子ども / 社会化 / 放課後 / 余暇 / フランス |
研究実績の概要 |
文化実践をめぐる子どもの社会化過程と芸術文化教育の役割を明らかにするため、フランスにおける4つの教育機関での調査を令和1年6月まで実施、関係者への聞き取りや既存調査の整理などを含む現地調査を同年8月まで継続した。主にエスノグラフィの手法を用いて参与観察を実施し、観察者自身と被観察者との関係についての分析を行った。また芸術文化教育に関与しているアニマトゥール、アーティスト、教師らにインタビューを行った。さらにインタビューおこしとフィールドノーツの整理を行い、これらの分析結果について、客員研究員として所属していた現地研究機関における報告やディスカッションを行ったほか、日本社会学会における報告を行った。 以上の分析や結果報告を通じて、子どもが他者との関わりの中で芸術文化教育を経験するプロセスの全体を社会化としてとらえるならば、社会化において子どもが大人と形成する関係や子ども同士で形成する関係、文化の生産過程への関わり方は、子どもの年齢の違い、活動の枠組みの違い、活動を指導する大人の役割の違いに影響を受けることを明らかにすることができた。そこでは、社会化における子どもの主体性や能動性が浮かび上がっている。また芸術文化そのものの学びという点では、指導者の専門性に影響力がある一方、芸術文化を通じた新たな学びという点では、芸術文化教育は、学校における授業などの制度化された活動にも、学校の授業の枠外で展開されるノンフォーマルな活動にも効果をもっていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度の研究では、学校での教育や家庭における自由時間とは異なる、自治体などが放課後等に提供する教育的余暇としての芸術文化活動に固有の社会化がいかなるものであるかを、既存研究の成果に照らして考察する予定であった。そのため、「社会化」や「文化の民主化」という既存の概念に新しい視座を提起している「子ども社会学」の分野を中心に既存研究の整理を行い、当該分野の研究者との議論を通じて、子どもの芸術文化活動への参加のプロセス全体を異なる4つのフィールドで比較した。4つのフィールドでの調査を遂行してデータを収集できたことから、分析の一部に着手できており、学校や家庭以外の場における芸術文化教育の社会化の特徴を把握しつつある。また芸術文化教育の内容、実施の方法や環境に応じた社会化のバリエーションについても理解を深めている。さらに調査の結果を「社会化」や「文化の民主化」のもとで分析する目処を立てることができた。 いっぽう、子ども社会学や若者の社会学の分野における研究者との交流を通じて、本研究の理論的発展と当該分野における貢献について検討してきたが、日程の調整に困難が生じたため、計画していた国際的な研究集会を開催することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、本研究は子どもの普段の余暇活動を把握するために、芸術文化教育の諸プログラムに子どもを参加させている親に対するインタビューを実施する予定であった。これは、子どもを取り巻く文化環境や友人関係が、芸術文化教育の経験にどのように関係するのかを明らかにするためである。だが、親に対するインタビュー調査には、親が把握する範囲内での子どもの活動しかとらえられないという限界がある。また現地調査で親へのインタビューを行うことは、新型コロナウィルス感染拡大の状況に鑑みて実現が困難になっている。子どもを取り巻く文化環境は、子ども社会学の既存研究や省庁による各種調査、観察によっても間接的に把握することが可能である。そこで今後は、子どもの芸術文化教育における社会化過程における文化産業などの子どもを取り巻く文化環境の影響や、学年別の友人関係や時間の管理などの学校的な枠組みの影響を、先行研究ならびにフィールドノーツの分析を通して明らかにする。さらに令和2年度の研究では、インタビューやフィールドノーツなどのデータを利用して、異なる専門性に裏づけられた職業人たちが、協働においてどのように譲歩したり緊張関係に折り合いをつけたりしているのかを明らかにしたい。 当該分野ならびに関連分野の研究者との交流はできる限りオンラインで行うこととし、現地での収集が必要な資料等については折を見て調査を実施することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染状況が変化したことにともない、令和2年3月に予定していた現地調査を断念したため。また開催を予定していた国際的な研究会の日程調整に困難が生じ令和1年度の開催を見合わせたため。
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