令和5年度の研究では、フランス文化省や国民教育省によって2000年代以降に行われた芸術文化に関する複数の全国調査を参考に、フランスの芸術文化教育の多様性を明らかにしたうえで、その可能性と課題を考察した。 第一に、フランスの学校における芸術文化教育は、サーカス、ストリート・アート、味覚芸術、都市計画などが提供されるなど、多様な文化実践を含んでいることが分かった。いっぽうで、学校で提供される主要な芸術文化活動は、ミュゼや遺跡・記念碑の見学、楽器の演奏、演劇、造形芸術であり、これらは実際には一般に人々が実践している余暇活動としてはあまり行われていない。このことから、フランスの芸術文化教育は、多様性の広がりにおいてなお十分とは言い難い側面をもちながらも、一般的な文化実践においてはほとんど行われない芸術文化を、学校を通じて普及させているという点においては、多様性の維持に貢献しているといえる。 第二に、フランスの学校における芸術文化教育は、どのような教育機関によっても同じように提供されているとは限らないということがわかった。例えば、少なくともひとつの芸術文化教育に関連した活動やプロジェクトに関与している生徒の割合は、中学校で6割程度、小学校で8割程度である。この割合を、恵まれない地域として「教育優先地域」に指定された場所にある学校と、それに該当しない学校とを比較した場合、教育優先地域の学校における割合のほうが小さくなる。この割合は教師の勤続年数にも関連している。このことから、フランスの芸術文化教育には地域格差の課題が残されていることが分かる。 研究期間全体を通じて、本研究は、学校、課外活動、余暇の時間に行われる監督された子ども向けの教育的余暇活動の特徴を子どもの社会化の視点から考察し、芸術文化実践の社会的格差の是正にとってこれらの活動が果たしうる役割と課題を示すことができた。
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