本年度はAu/Ag/Ge/Si基板へのミリメートルスケールの単結晶グラフェン(Single crystal graphene: SCG)の転写と、加熱による界面へのGe析出を行った。X線光電子分光法(XPS)とラマン散乱分光により、SCG直下へのGe析出とゲルマネン形成について調べた。 まず従来の転写条件では大面積のSCGに剥離と破れが生じやすく、転写法の改善が必要であることが分かった。具体的な改善策として、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)溶液の濃度とスピンコート条件を変更し、SCG支持用のPMMA膜厚を従来より厚膜(約1μm)にすることでSCGの剥離と破れが低減されることが分かった。転写法の改善により、SCG/Au/Ag/Ge/Si構造の作製に成功した。 続いてSCG直下へのGe析出について調べた。加熱したSCG/Au/Ag/Ge/Siの深さ分析の結果から、SCG直下にGe析出が起こることと、Au/Ag/Geは合金層へと変化していることが分かった。その場加熱XPSにより表面のGe/Auの組成比の温度依存性を調べることで、SCG直下でもGeの析出がグラフェン無しと同様に起こることが分かった。 Ge3dのピーク形状から金属的なGeが主に析出していることが分かったが、分光器のエネルギー分解能の限界のため、析出したGeが2次元的なゲルマネンか3次元的なGe結晶かは不明であった。また、ラマン散乱分光からはGe由来となるピークが観察されなかった。本課題は最終年度であるが、放射光を使った光電子分光や波長の異なるレーザーを用いたラマン散乱分光により、析出したGeがゲルマネンかどうかを今後明らかにする。 ゲルマネンは大気中で容易に酸化するが、SCG界面に析出したGeは少なくとも25日間の大気暴露後でも金属的であり、SCGが保護膜として機能することを明らかにした。
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