研究実績の概要 |
指定した固有値をもつ行列を作成する問題を逆固有値問題という。逆固有値問題は、作成する行列の性質や形によって難易度が異なる。とりわけ、すべての小行列式が非負である全非負(totally nonnegative, TN)行列の逆固有値問題の解法はほとんど知られていない。 具体的に解を書き下せる非線形方程式の特別なクラスを可積分系という。時間変数を離散化した離散可積分系と呼ぶ。代表的な離散可積分系の1つである離散戸田方程式は、3重対角行列の固有値計算法として有名な商差(quotient-difference, qd)法の漸化式と一致する。この発見から、離散可積分系を起源とする固有値計算法がいくつか提案されてきた。 離散可積分系と固有値計算法の関係に着目し、離散可積分系に基づく逆固有値問題の解法の定式化に成功している。 研究期間において、簡約条件付きの離散2次元戸田方程式に基づき、任意の(互いに素でない)帯幅をもつ行列の逆固有値問題の解法の開発を行った。さらに、ジグザグ構造をもつ5重対角行列の逆固有値問題についても、直交多項式理論と離散相対論戸田方程式を用いて解法を提案した。 2023年度は、非対称な周期的ヤコビ(periodic Jacobi)行列の逆固有値問題の研究に取り組んだ。先行研究では、対称な周期的ヤコビ行列の逆固有値問題に対してランチョス(Lanczos)法をベースとした手法が提案されている。本研究では、提案法のアルゴリズムにおけるパラメータと、これまでに提案した離散戸田方程式に基づく解法のパラメータとの関係を調べることで、新たに非対称な周期ヤコビ行列の逆固有値問題の解法の開発に成功した。研究成果をまとめ、国際会議で報告し、国際論文誌に投稿する予定である。 また、行列解析分野に現れる特殊な構造をもつ行列のデータ解析へ応用についても研究報告を行った。
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