研究課題/領域番号 |
17K18234
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
和久 剛 同志社大学, 生命医科学部, 助教 (40613584)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 20Sプロテアソーム / 腫瘍増大 / NRF3 (NFE2L3) |
研究実績の概要 |
がんの発生や進行は、増殖能や血管新生能、浸潤能、転移能といった特徴的な細胞性質の獲得によって惹起される。近年ではさらに、エネルギー代謝や免疫系にもがん特性が見出されている。またタンパク質恒常性(プロテオスタシス)の破綻もがん増悪の要因になることが、プロテアソーム阻害剤ベルケイドが抗がん作用を有することなどから推察されている。しかしながら、プロテオスタシスがなぜ破綻し、どのようにがん増悪を惹起するのか、詳細な分子基盤はほとんどわかっていない。申請者はこれまでに、転写因子NRF3はがん細胞の増殖を亢進させることを明らかにしている。さらに、NRF3はユビキチン非依存的なタンパク質分解を担っている20Sプロテアソームの発現を促進し、p53タンパク質の分解を亢進させる。それにより、アポトーシス誘導や血管新生などの様々ながん抑制シグナルが阻害される可能性をin vitro解析から見出した。そこで本研究ではNRF3による新たなプロテアソーム発現制御を介した腫瘍増大メカニズムをin vivoで検証することを目的とした。平成29年度ではまず、NRF3の恒常的な安定発現株および発現抑制株を複数のヒトがん細胞で樹立し、グリセロール密度勾配遠心法と蛍光基質を用いて20Sプロテアソーム活性を測定した。またヒトがん患者での解析として、The cancer genome altasの登録されている遺伝子発現データを用いて、カプラン-マイヤープロットによるNRF3発現と患者の生存曲線解析を癌腫別に実施した。さらにリアルタイムPCRやウエスタンブロット、クロマチン免疫沈降から、20Sプロテアソームの活性化に関わる新たなNRF3標的因子や、p53以外の新たな20Sプロテアソーム基質タンパク質の探索を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
NRF3安定発現細胞株はヒト大腸がん細胞HCT116とヒト肺がん細胞H1299で樹立に成功した。また発現抑制株は、当初計画していた薬剤誘導性ではないものの、恒常的ノックダウン細胞をヒト大腸がん細胞HCT116およびp53欠損HCT116細胞で樹立した。さら樹立細胞の20Sプロテアソーム活性は、NRF3安定発現で亢進し、NRF3ノックダウンで低下することを見出した。またヒトがん患者での解析は、当初計画していた腫瘍アレイではなくデータベースThe cancer genome atlasを用いたものの、NRF3高発現で生存率が低下する癌腫の絞り込みに成功した。加えて樹立細胞を用いたin vitro解析やデータベース解析から、NRF3が直接転写誘導する20Sプロテアソームアッセンブリ因子や、それによりタンパク質量が変動するp53以外のがん抑制因子新たに見いだすことができた。以上の結果から、本研究は当初の計画以上に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、NRF3が標的とする20Sプロテアソームアッセンブリ因子、およびNRF3発現で変動するp53以外の癌抑制タンパク質を見出している。そこで今後は、これらの知見を検証するため以下のように計画の一部を変更する。 1)当初の計画通り実施する実験項目;マウス移植による樹立細胞由来の原発腫瘍サイズの継時的変化と重量の測定、およびNative-PAGEによるプロテアソーム活性測定 2)一部計画を変更する実験項目;原発腫瘍の細胞周期解析はKi67の免疫染色にて行う。転移解析はマトリゲルチャンバーを用いたin vitroで評価する。 3)新たに追加する実験項目:POMPプロモータ内のNRF3結合領域をCRISPR/Cas9システムにより変異した細胞株を樹立し、腫瘍形成や20Sプロテアソーム活性、遺伝子発現解析を行う。またNRF3誘導性プロテアソームの分子構成や標的基質の同定を質量分析を用いて試みる。
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