前年度の成果として、NRF3がプロテアソームシャペロンPOMPを転写誘導し、20Sプロテアソームのアッセンブリを促進していることを見出した。また、NRF3は、p53やRetinoblastoma (Rb)といったがん抑制因子のタンパク質量を低下させることを見出した。20Sプロテアソームはユビキチン認識ユニットである19S複合体を有しないことから、平成30年度は (1) NRF3-POMP軸の亢進とがん増悪との関連、および(2) p53やRbタンパク質分解のユビキチン非依存性の検討、および(3)ヒトがん患者解析を実施した。(1)まず、NRF3が腫瘍増悪に及ぼす影響をマウス移植モデルを用いて検討した。樹立済みNRF3高発現およびコントロール細胞を免疫不全マウスの皮下あるいは脾臓に移植した。その結果、NRF3高発現によって皮下腫瘍が増大すること、ならびに脾-肝転移が促進することを見出した。さらにPOMPプロモーター内のNRF3応答配列をCRISPR/Cas9システムで変異させた結果、これらNRF3高発現によるがん増悪化が有意に低下することを明らかにした。(2)NRF3が誘導するp53やRbのタンパク質分解にユビキチン要求性があるかを確認するため、ユビキチン活性化酵素阻害剤TAK-243の影響を調べた。その結果、p53やRbタンパク質量はTAK-243存在下でもNRF3高発現によって低下してたことから、NRF3はp53やRbタンパク質をユビキチン非依存的に分解していると結論づけた。(3)ヒトがん患者解析は、当初計画していた腫瘍アレイではなくデータベースThe cancer genome atlasを用いた。その結果、大腸および結腸がんにおいてNRF3とPOMPのmRNA量には正の相関があること、さらにはPOMP/NRF3高発現患者群の生存率および再発率が低下することを明らかにした。
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