研究課題/領域番号 |
17K18237
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
織田 涼 立命館大学, 文学部, 職員 (90738238)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 認知科学 / 実験心理学 / 問題解決 / 意識 / 注意 / 創造性 / 感情 |
研究実績の概要 |
本年度は,2つの研究で計4つの実験を実施した。第1研究では,洞察問題解決における顕在プロセスと潜在プロセスの相互作用の検討を行った。実験1では,課題への集中が妨げられやすい騒音環境で潜在ヒントを呈示すると解決が促進されるが,課題に集中しやすい静穏環境ではヒントが解決をかえって妨げる傾向が示された。ただし,このパタンは,個人差変数である注意抑制が中程度の参加者に限って観察された。この成果は,日本心理学会2018年度大会で発表予定である。実験2では,集中環境でのヒントの妨害効果が,解の発見までの所要時間でも観察されるかどうかを検討した。 第2研究では,潜在的に活性化された感情価が,同じく潜在的に処理されるヒントの利用に及ぼす影響を検討した。実験3では,ポジティブな感情価をもつ刺激の後に潜在ヒントを呈示すると,問題の正解となるアイデアが「正しい」と認知されやすくなり,ネガティブな刺激とヒントを連続呈示すると,正解のアイデアが「誤り」と認知されやすいことが示された。実験4では,潜在ヒントをポジティブな刺激の後に呈示した時にのみ,問題の解決率を上昇させるという結果を得た。これらの結果は,ヒントが意味する適切なアイデアが,活性化された感情価に沿って評価されていることを示唆している。 また,これらの研究で用いた洞察課題は,誤ったアイデアへの固着を引き起こしやすい日本語版遠隔連想課題として過年度より開発を続けてきたものである。本年度には,この開発成果を論文にまとめ,日本心理学会の「心理学研究」に採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初における本プロジェクト初年度の計画では,顕在的な注意コントロールと潜在ヒントの相互作用に絞って研究を行う予定であったが,解決者の感情状態の影響に関する研究を開始することができた。 前者の顕在プロセスと潜在プロセスの相互作用については,問題に取りくもうと意識的に集中することが,有効なアイデアの利用を妨げる効果を持つことが示唆された。また,顕在プロセスにおいては,解決者の外的要因(たとえばノイズの有無)と内的要因(抑制の個人差)が関わることが示された。 感情の影響については,ポジティブな感情価の活性化による潜在ヒントの利用の促進効果を,二つの実験で頑健に観察することができた。感情が洞察問題解決に及ぼす影響については長らく議論が続けられているものの,一貫した成果が得られないことも多くあり,また感情の影響のメカニズムは不明なままである。本研究の結果は,得られた手がかりやアイデアの有効性が,内的な感情状態にしたがって認知されていることを示唆しており,感情が影響するメカニズムの解明に一定の貢献がある。
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今後の研究の推進方策 |
顕在プロセスと潜在プロセスの相互作用の検討では,潜在手がかりによる妨害効果が発生する条件として,解決者の注意コントロールを変化させる内的・外的な要因が絞り込まれてきた。本年度は,この妨害効果の発生のメカニズムを明らかにするための研究へと,を進めていく。ただし,注意コントロールの変化は,単一の要因での操作や,単一の課題での測定では十分にとらえることができないため,手続きの改善を図ることが必要と考えている。 また,感情の影響の検討については,上述の顕在プロセスと潜在プロセスの相互作用に関する研究との統合を進める。すなわち,感情の変化によって,解決者の注意コントロールの働きが促進または抑制され,潜在ヒントの利用に影響するという仮説を,実験的に検討していく。さらに,解決者の感情状態の測定方法として,従来の質問紙尺度だけではなく,課題遂行中の参加者の表情の記録を行う。主観的指標と客観的指標を同時に使用することで,感情状態の把握の精度を高めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が発生した理由として,2017年度に参加した学会のうち,一部の旅費が他の研究費から支出されたこと,および本の購入が遅れたことの2点が挙げられる。 発生した使用額の使用用途して,2018年度はすでに,国内外の学会発表が2件予定されており,さらに申し込み中の国際学会があるため,それらの旅費に当てる予定である。
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