研究課題/領域番号 |
17K18238
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
宮内 肇 立命館大学, 文学部, 准教授 (10722762)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 中国近代史 / 広東省 / 台山県 / 陳済棠 / 地方自治 / 宗族 / 郷村復興 / 地域エリート |
研究実績の概要 |
本研究は、近代中国における宗族が自己の存続のために、いかに思案し変革しようとしたのかという関心に基づき、1930年代の広東省に焦点をさだめ、広東省政府の宗族に対する認識や扱い方、および同時期の宗族の形態と自己意識を解明することを目的とするものである。 本研究の第3年目となる2019年度は、30年代の広東省政府(陳済棠〔1890-1954年〕政権)の地方自治政策と、その政策が、地域社会では実際にいかに展開されたかについて、実態の解明に努めた。 まず、前者では、蒋介石の南京国民政府の集権化との差別化と孫文の「国民政府建国大綱」の後継者として、「下からの」民主的な自治政策を提示する。しかし、民衆の自治に対する関心の低さから、世界恐慌に苦しむ農村の復興こそが優先されるべきであるとし、農村の復興の先に、民衆の自治が生まれるという方針を示した。また、同時に地方自治の人材育成にも尽力し、地方自治の知識と農業技術を習得した地域のエリートによって、農村の復興と民衆の政治に対する意識変化を通じて、地方自治の普及が可能になるとした。 一方、後者については、20年代から30年代にかけての広東省台山県における地方自治の実施過程とその担い手について実証的な分析を行った。20年代に広東省長・陳炯明(1878-1933年)による地方自治政策で生まれた、有力宗族の代表としての同県の地域エリートは、30年代になると、県の国民党員や地方自治の設置委員として、県参議会(県議会)選挙を先導していく。郷村レベルでは、村内の有力宗族が基層社会の政治を独占する構図が散見された。こうした宗族結合を基盤とする自治の実態を、県当局は問題視したものの、不況と「帝国」日本の侵攻への準備のための備蓄や節約、あるいは外部からの資本と物資の援助は、宗族結合があってこそ可能になるという現実が存在した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目標である(1)広東省政府の宗族に対する認識や扱い方、(2)同時期の宗族の形態と自己意識の解明のうち、後者について、その実態について解明することができたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、本研究の目標である(1)広東省政府の宗族に対する認識や扱い方、(2)同時期の宗族の形態と自己意識の解明のうち、前者について、さらに考察を深める必要がある。その方針として、陳済棠政権は、広東固有文化の創設を目的として、明徳社を組織し、中国人としての道徳のあり方を提示しようとした。この明徳社の実態解明を通じて、広東省政府・広東省社会において、宗族意識がいかなる存在であったのかを明らかにすることができる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年2月に中国・広東省広州市等への史料調査を予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大にともない、出張を中止した。そのため、2019年度の直接経費の一部を次年度へ繰り越すことになった。繰り越した経費については、2020年度の物品費として利用するか、もし状況が好転すれば、中国への資料調査を行いたい。
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