最終年度の2020年度は、これまでの成果の一端をまとめて刊行した『戦後日本の満洲記憶』(佐藤量・菅野智博・湯川真樹江編、東方書店、2020年)をめぐって、中国現代史研究会など隣接領域の学会にて書評会を催し、当該研究者に批評を仰いだ。 書評を通して、戦後日本社会において植民地経験が忘却されていくメカニズムの一端を明らかにしたことや、これまでの満洲史研究および引揚研究において十分に追求されてこなかった「会報」の史料的価値など、本研究の意義を再確認することができた。 他方で新たな課題も浮上し、①引揚者女性の生活史とジェンダー問題、②中国人によっての満洲の歴史と記憶、③満洲「開発」を近代化に寄与したと捉え賞賛する言説に対するアプローチのあり方など、今後の研究に資する有意義な示唆を得ることができた。 とりわけ、③満洲引揚者によって語られがちな満洲「開発」を肯定的に捉えようとする言説の内実と背景を解明することは、戦後日本社会に通底する「開発至上主義」を問い直すことにもつながるため、次の重要な研究課題として発展的に取り組んでいく。 なお『戦後日本の満洲記憶』の書評は、近現代東北アジア地域史研究会や日本オーラル・ヒストリー学会など学術領域のみならず新聞各紙でも取り上げられ、『東京新聞』(2020年5月9日 評者:吉田裕)、『信濃毎日新聞』(2020年6月2日)、『週間読書人』(2020年7月24日 評者:加藤聖文)など多くの反響を得た。その結果、2020年7月に第2刷、2021年3月に第3刷を重ねた。
|