研究課題
当該年度の研究では、泊園門人を輩出した大阪商人のうち、住友家および杉村家を取上げ、両家の泊園書院とのかかわりを考察した。まず住友家については、同家の分家の当主・住友理右衛門(名は友衆、号は南汀)の泊園書院での学びや泊園書院関係者との交流の実態を明らかにした。また同家の本家の当主・住友吉左衛門(名は友純、号は春翠)が泊園門人の茶人・中川魚梁に学んだことや住友家の雇用経営者である鈴木馬左也が泊園門人の僧侶・今北洪川に帰依したことについても調査した。次に杉村家についてであるが、同家は大阪産業近代化のリーダーである五代友厚に協力した商家で、初代杉村正太郎は五代とともに大阪製銅・関西貿易社・神戸桟橋など多くの企業を設立した。その長男の二代目杉村正太郎は五代の娘を娶ったが、弟の徳次郎・永三郎・猿之助とともに泊園書院で学んでいる。考察では、二代目正太郎の事業活動とその背後にある意識を分析するとともに、杉村兄弟の泊園書院とのかかわり(入門履歴や成績推移、同窓会・祝賀会の参加状況、常費寄贈の実態など)についても調査した。以上の考察により、大阪経済界の巨頭で重建懐徳堂の設立にも深くかかわった住友家の人々が泊園書院の学芸を受容していたこと、五代友厚に協力するなど新時代の到来にいち早く反応した杉村家の人々が泊園書院と深い関係を持っていたことが明らかとなった。これらの事実は、泊園書院を中心とする大阪漢学が当時の実業界のリーダーたちと共鳴する関係にあったことを示唆している。なお、補助事業期間全体を通じて、事業活動に熱心な泊園書院出身者の思想(意識)と実践(行動)について考察してきたが、都市と地方を含めた地域ごとの事例研究に加えて、門人情報のデータベース化を進めることができた。ただ、大阪漢学と実業界との関係を踏まえた重建懐徳堂の設立運動の考察は不十分のままである。これについては今後の課題としたい。
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『東西学術研究所紀要』
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
『泊園』
巻: 第58号 ページ: 69-126
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