研究課題/領域番号 |
17K18251
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
宮嶋 純子 関西大学, 東西学術研究所, 非常勤研究員 (80612621)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ベトナム仏教史 / 仏典流通史 |
研究実績の概要 |
今年度は、ベトナム・バクザン省ボーダー寺所蔵典籍の実地調査とその特徴の分析を中心に進めた。この典籍群は18世紀-20世紀初頭にかけてベトナム北部地域で刊行された仏教経典類及び少数の道教関係文献や字書等から構成される。 従来、本寺の所蔵典籍は貴重ではあるが、ほとんどが漢喃研究院等ベトナム国内の他機関に所蔵される典籍と同種であると見做されてきた。しかし仔細を検討すると、他機関及び中国などにも現存しない文献が一部含まれることが判明した。またベトナム刊行仏典の底本に関しても、中国由来のものだけではなく、日本の黄檗版大蔵経、中でも法然院忍徴の対校本を底本としてベトナムで覆刻された典籍があることが確認された。黄檗版大蔵経の流入は当時ハノイに置かれたフランス極東学院を通じたものであり、その流通経路の解明は今後の課題である。 さらに、寄進者の情報などが豊富に含まれる刊記・慕縁記が付されるのがベトナム刊行仏典の特徴である。慕縁記には広範な地域の出家者や在家信者、官吏の名や寄進額が克明に記録されており、仏典刊行を支えた人々の具体相を知る手がかりとなる。 以上のように、ボーダー寺所蔵典籍の重要性と様々な研究課題が明らかになりつつある。これらについて「ベトナム・バクザン省ボーダー(補陀)寺所蔵典籍に関する基礎的検討」(9月・佛教史学会)及び「従越南佛典刊行事業看東亜佛教文化交流」(10月・広州中山大学)として研究報告を行った。 また関連調査としてベトナム北中部、タイ・ラオスなど周辺諸地域の寺院視察や資料収集なども実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の主要な目的である、バクザン省ボーダー寺所蔵の典籍調査について、当初の計画よりも若干の遅れが生じているためである。2018年度中に一通りの現地調査を終える予定であったが、現在は8割ほどの調査に留まっており、それに伴い、調査済資料の整理・分析にも若干の遅れを生じている。 寺院側の事情(2017年度より国家重要史跡に指定され、巡礼客が増加したことや修復事業が開始されたこと、多様な儀礼の開催など)により、調査可能な時期が限られること、調査の準備や写真撮影に想定よりも多くの時間がかかったことが主な理由である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度中にボーダー寺所蔵典籍の調査を一通り終えること、併せて書誌情報の整理・検討を進めて同典籍群の全体像の把握を目指す。ボーダー寺、或いは近隣のヴィンギエム寺等には木版版木も保存されており、所蔵版本との比較が可能である。各典籍の末尾に付された寄進者名簿の分析や関連の碑文資料なども利用しつつ、近世北部ベトナム地域における仏典刊行事業の実態解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度内に予定していた現地調査を諸事情により延期せざるを得ず、残額が生じた。 この次年度使用額については、翌年度分として請求した助成金と合わせ、主としてボーダー寺所蔵典籍の調査にかかる諸費用及び関連書籍・資料の購入費として使用する。
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備考 |
宮嶋純子「従越南佛典刊行事業看東亜佛教文化交流」(翻訳:曽昭駿)、『中日古代社会文化史学術研討会論文集』、2018年10月、301~310頁
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