研究課題/領域番号 |
17K18255
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
前野 覚大 関西医科大学, 医学部, 助教 (70570951)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 細菌芽胞 / 圧力殺菌 / 高圧NMR |
研究実績の概要 |
芽胞形成菌と呼ばれる一部の細菌は、増殖に不適当な環境に置かれると強い抵抗性を示す芽胞を形成する。これらはしばしば加工食品の製造過程、医薬品の原材料および製剤過程における細菌汚染および重篤な食中毒や感染症などを生じる原因となるが、芽胞を微生物学的に制御するための方法は長い間確立されていなかった。そこで本研究では、近年、現象論的に高い殺菌効率が認められた中程度の圧力と温度を組み合わせた方法に注目し、高圧 NMR 法を用いた分子論的アプローチ、位相差または走査型電子顕微鏡を用いた形態学的アプローチによって芽胞殺菌過程における分子機構の一端を明らかにすることを目的とした。平成29年度は、まず、大量培養および精製したBacillus subtilis natto由来の芽胞に対する圧力効果と温度効果を1H NMRスペクトル上で分離し、それぞれを検証した。その結果、(1)細菌芽胞に対する圧力効果として、加圧時と除圧時で時間スケールが全く異なる二段階での内在性成分DPAの漏出が生じる、(2)温度効果として、タンパク質成分の熱変性が認められる。(3)しかしながら、圧力または熱の単独処理では芽胞の殺菌効率は上がらないことが示された。 他方、加熱処理に先立ち、前処理として芽胞を加圧しておくと、2000気圧の前処理と100℃処理の組み合わせにおいて、芽胞を湿熱滅菌した際と同様のNMRスペクトルが得られ、ほぼ完全に芽胞が殺菌されることがわかった。併せて、様々な条件で処理した芽胞におけるDPAおよびタンパク質漏出量の定量、走査型電子顕微鏡による形態学的変化の観察、コロニー形成能の比較を行い、殺菌効率の大幅な上昇には加圧前処理によって生じる芽胞内部への浸水とそれに伴う外部へのDPAの漏出が重要なプロセスであることが分子レベルで明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は安定同位体標識したB.subtilis芽胞の大量培養および精製法の確立を計画していた。芽胞形成に用いる培地を従来のDSM培地から13Cグルコースを炭素源とするM9培地へと変更し、大量培養の条件をスモールスケールで検討した。計画では、DSM培地と同じ1L当たり1.5-2.0×1010 cfu/mLの収量を見込んでいたが、実際はその半分程度1.0×105 cfu/mLの収量であった。 並行して進めた高圧NMRを用いた芽胞に対する圧力効果および常圧NMRを用いた熱効果の解析では、一次元NMR測定において、それぞれで異なる成分変化または成分漏出の過程が観測された。平成30年度は、安定同位体試料が準備でき次第、上記の効果を多次元NMR測定で検証する。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度では一次元NMR測定で芽胞に対する圧力および温度効果を分離して検証できたため、平成30年度は以下の点について研究を進める。 (1)安定同位体標識した芽胞の収量向上を目的に条件検討を行う。 (2)多次元NMR測定を用いて、加圧処理と加熱処理を組み合わせた効率的な芽胞殺菌法を適用した際に漏出する成分の分析を行う。基本的にはNMRデータベースを利用して行うが、困難な場合は成分分析受託試験機関に依頼する。 (3)各物理処理(加圧、加熱、圧力前処理後の加熱)に伴う漏出成分の抽出およびNMRデータベースを用いた成分同定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度にアナログ圧力計の購入を予定していたが、既存のもので代用が可能となったため、当初の購入費用が残った。平成30年度は、安定同位体標識した芽胞の大量培養を計画しているため、炭素源および窒素源となる13Cグルコースと15N塩化アンモニウムの購入費用として使用する。
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