研究実績の概要 |
本研究では将来的な細菌芽胞の新規不活化法の開発を見据え、近年、その有効性が現象論的に認められてきた芽胞に対する圧力殺菌効果を、分子論的および形態学的アプローチで解析した。平成30年度は、NMRを用いた芽胞漏出液中の成分分析および走査型電子顕微鏡を用いた形態学的解析を中心に行った。 ①【加圧前処理後の加熱処理に伴う漏出成分のNMR解析】:芽胞懸濁液を加圧前処理(200MPa,10min)の後に加熱処理(100℃,30min)し、処理液上清と沈殿懸濁液それぞれにおける含有成分をNMRで分析した。主な化学シフト値をデータベースで照合した結果、上清に既知の内在性成分DPAに加えて、アミノ酸、核酸、糖質、有機酸が漏出した可能性が示された。他方、芽胞懸濁液では脂質あるいは細胞由来と考えられるブロードな信号群が認められた。②【殺菌処理に伴う芽胞損傷の形態学的解析】:各物理処理を施した芽胞の表面構造変化を走査型電子顕微鏡で調べた結果、加圧処理では最外殻が内側に大きく窪んでいた一方、加熱処理では表面が凸凹に波打つように変形していた。これらの形態変化が意味することはまだ不明瞭だが、少なくとも圧力と温度とでは全く異なる形態変化が生じる事が示された。③【圧力と温度処理条件のスクリーニング】:低圧(0.1-200MPa)および低温領域(60-100℃)で条件の組み合わせを検討した。条件ごとのNMRスペクトルの比較から、DPAが温和な条件下でも漏出していることが示唆され、蛍光色素を用いた顕微鏡観察と併せて、現時点では低圧・低温の条件は殺菌には不十分だが明らかに物理的な損傷を負っていることがわかった。温和な条件でも殺菌が実現できる可能性を示した今回の結果を基に、より汎用性の高い殺菌技術の開発を進めていきたい。
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