骨粗鬆症の病態には明らかな性差があり、性ホルモン以外の要因も骨代謝の性差に関与する可能性が示唆されてきた。マウス初代培養骨芽細胞表現型(骨芽細胞マーカー、石灰化など)における性差を検討したところ、分化や石灰化は、雄と比較して雌において著明に低かった。このような骨芽細胞の性差を決定する因子の探索を行うため網羅的遺伝子発現解析を用いて行ったところ、最も雌に発現量が優位に高い遺伝子として、Serpina3nを同定した。内因性Serpina3nの減少は骨芽細胞分化を有意に促進し、Serpina3n過剰発現は、マウス骨芽細胞株における骨芽細胞分化を有意に抑制した。また、Serpina3n発現は、マウス間葉系ST2細胞の骨芽細胞への分化には影響をおよぼさなかったが、石灰化を有意に抑制した。 脂肪細胞分化の影響を検討するためSerpina3n過剰発現3T3-L1脂肪前駆細胞株を脂肪細胞へ分化誘導させても脂肪細胞生成にはSerpina3nは影響しなかった。軟骨細胞への分化も検討するためSerpina3n過剰発現ATDC5軟骨芽細胞株を軟骨細胞へ分化誘導しても軟骨細胞への分化には影響しなかった。破骨細胞分化における影響を検討するためSerpina3n過剰発現Raw264.7単球系細胞株をRANKL存在下で破骨細胞分化を試みたが破骨細胞形成にもSerpina3nは影響しなかった。 以上の結果より、雌の骨芽細胞に優位に発現するSerpina3nは、分化した骨芽細胞における表現型を抑制する作用を有し、マウスの骨芽細胞表現型や骨粗鬆症病態の性差を部分的に説明する可能性が考えられた。このSerpina3nの発現を調節できれば女性における骨粗鬆症発症予防や治療につながると考えられる。
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