糖尿病性腎症の原因の一つに内皮間葉転換(Endothelial Mesenchymal Transition; EndMT)による腎線維化が考えられている。腎臓の血管内皮細胞がTGF-βなどの刺激を受けると血管内皮細胞としての性質が失われ間葉系細胞様の性質を獲得し腎線維化の進展につながると考えられている。そこで、本研究では血管内皮細胞におけるEndMTの進展とそれに対するエイコサペンタエン酸(EPA)の効果を検討した。また、脂肪細胞の肥大化は肥満や糖尿病と関連していることが知られているため、脂肪細胞が血管内皮細胞のEndMTへ及ぼす影響を検討した。 脂肪細胞の肥大化が血管内皮細胞へ及ぼす影響を検討するため、マウス由来3T3-L1細胞を脂肪細胞へと分化誘導し分化誘導後の培養液を採取し血管内皮細胞への刺激に用いた。分化誘導後4日目および8日目の脂肪細胞培養液で刺激された血管内皮細胞の遊走能は有意に上昇した。さらに脂肪細胞培養液の刺激により血管内皮細胞のCD31発現は減少し、SM22α発現は増加した。EndMTに関与している細胞内シグナルの一つであるErk1/2 のリン酸化の程度も脂肪細胞培養液によって増加が確認された。また、線維化との関連が深いプラスミノゲンアクチベータ-1(PAI-1)の発現量も増加が認められた。次にEPAを添加しEPAの抗EndMT効果を検討した。EPAは脂肪細胞培養液による遊走細胞数の増加、CD31発現量の減少、SM22α発現量の増加のいずれにも改善効果を示した。さらに、リン酸化Erk1/2の増加、PAI-1の増加を抑制することも明らかにした。これらのことから、肥満による脂肪細胞の肥大化はEndMTを引き起こし腎糸球体線維化の一因となる可能性が示された。一方で、E P Aは抗EndMT効果を示しEndMTによる腎線維化を抑制する可能性が示唆された。
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