研究課題
MATE(Multidrug And Toxic Compound Extrusion)型輸送体は原核生物から高等真核生物に至るまで広く保存されている多剤排出輸送体ファミリーの一つである。哺乳類においてもホモログが同定されており(SLC47)、腎臓、肝臓における有機カチオン排泄輸送体としての重要性が広く認められている。しかし、本研究では、有機カチオン排泄以外の機能、すなわち MATE 型輸送体がテストステロン輸送体として機能している可能性に注目している。これまでにマウスのMATEホモログであるmMATE2が精巣Leydig細胞特異的に発現 していることが報告されており、MATE 型輸送体のテストステロンの輸送への関与が示唆されている。また、 MATE 型輸送体の基質であるシメチジンやベラパミルについては、これらをヒトに投与した際の副作用として血中テストステロンの減少を起こす可能性があることが従来から添付文書にも記載されており、ヒトにおいても、MATE 型輸送体とテストステロン分泌との関連が強く示唆される。本研究の目的は、MATE 型輸送体 のテストステロン輸送体としての機能を明らかにすること、さらに、テストステロン分泌を効率よく抑制できるMATE 型輸送体阻害剤を探索することである。 平成30年度は当初計画に基づき、in vivo評価系を用いてMATE型輸送体の基質がラット血清中ホルモン量に影響を与えること、また、生後2週齡のブタ精巣から得られる初代培養pig Leydig細胞を用いて、MATE型輸送体の基質がテストステロン産生酵素のmRNA発現や酵素活性に影響を与えずにテストステロン分泌を抑制することも明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当初計画に基づき、in vivo評価系を用いてMATE型輸送体の基質であるシメチジン、ピリメサミンの投与によりラット血清中テストステロン量が有意に減少し、MATE型輸送体の基質であるが、ホルモン系への影響が報告されていないメトホルミン投与ではラット血清中テストステロン量に有意な変化が認められないことを明らかにした。また、生後2週齡のブタ精巣から得られる初代培養pig Leydig細胞からのテストステロン分泌がシメチジン、ピリメサミン共存下で抑制されること、さらに細胞内テストステロン量、エストラジオール量に対する影響を明らかにした。またメトホルミンではそれらに対する影響がないことも確認した。これらの薬剤がテストステロン産生酵素(P450scc, P450cl7, 3β-HSD, 17β-HSD, StAR protein)のmRNA発現や酵素活性に影響を与えずに分泌を抑制することも明らかにした。
当初計画に基づき、MATE型輸送体の代表的な基質であるシメチジン、ピリメサミンと脂溶性ホルモンの輸送機構の相違点を明らかにするため、脂溶性ホルモンの結合ポケットを明らかにする。MATE型輸送体には、基質特異性の異なる3つのClassがある。基質特異性は、基質結合ポケットのアミノ酸残基の違いに由来すると考えられるので、結合ポケットのClass間の相違点を詳細に検討し、基質特異性に関与するアミノ酸残基を明らかにする。その後、ドッキングシミュレーションを用いて、Class 3特異的に強く結合する薬剤の探索を行い、その結果見出した薬剤について、これまでに確立した[3H]-testosteroneを用いたトレーサー実験の評価系を用いて、テストステロン分泌阻害能の評価を行う。
実験計画は概ね順調に進んでいたが、次年度に新しいドッキングシミュレーションソフトを購入予定だったため、その購入予算の確保のため、次年度に繰り越した。本年度は、ドッキングシミュレーションを用いて、Class 3特異的に強く結合する薬剤の探索を行い、その結果見出した薬剤について、これまでに確立した[3H]-testosteroneを用いたトレーサー実験の評価系を用いて、テストステロン分泌阻害能の評価を行う予定である。
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