研究課題
本研究の目的は、種々の栄養因子を含む脳脊髄液を産生している脈絡叢上皮細胞に着目し、脊髄損傷時におこる脈絡叢上皮細胞の応答を調べることで、本来持っている神経の自己再生メカニズムの一端を明らかにすることである。そのためにまず、ラットの側脳室と第四脳室の脈絡叢を採取し、それぞれの脈絡叢上皮細胞の初代培養の至適条件を検討し、培養系を確立した。次に、側脳室と第四脳室由来脈絡叢上皮細胞の性状の違いを調べるために、免疫細胞化学的な手法でタンパク質レベルでの発現の違いを比較検討した。その結果、驚くべきことに、側脳室由来の脈絡叢上皮細胞の多くは未分化マーカーとして知られるSox2を発現していたが、第四脳室由来の脈絡叢上皮細胞はSox2を全く発現していなかった。このことは、側脳室の脈絡叢上皮細胞は分化能を持った状態で待機し、脊髄損傷などの中枢神経系の障害時に目的部位に遊走し、必要な細胞に分化することで自己修復の一端を担っていることが示唆された。一方で、第四脳室由来の脈絡叢上皮細胞は、未分化性は示さなかったが増殖能は側脳室由来脈絡叢上皮細胞より高いことがわかった。第四脳室の脈絡叢はそれ自身が分化するのではなく、産生する液性因子を介して中枢神経系の再生に寄与していると予想される。このことは、今後培養上清の詳細な解析をして明らかにしていく必要がある。現在、側脳室と第四脳室由来脈絡叢上皮細胞のin vivoでの生理的な違いの解析を進めるとともに、脊髄損傷時の変化を解析中である。さらに、側脳室由来脈絡叢上皮細胞が実際に他の細胞に分化するかを培養細胞レベルで検討する予定である。
2: おおむね順調に進展している
今年度は、側脳室と第四脳室由来の脈絡叢上皮細胞の初代培養系を確立したことで、それぞれの機能を細胞レベルで比較検討することが可能となった。当初は、先に脊髄損傷ラットの脈絡叢組織としての反応を発現遺伝子のプロファイリング等で網羅的に解析することを予定していたが、先に培養系を確立したことで結果として側脳室由来脈絡叢上皮細胞は未分化性があること、第四脳室由来脈絡叢上皮細胞は増殖能が高いことがわかったことは本研究の最終到達点である脈絡叢の神経自己修復への寄与の解明に近付けたと言える。来年度以降の具体的なストラテジーも決まったことは有意義であった。
(1) 培養細胞を用いて、側脳室由来脈絡叢上皮細胞が実際に各種細胞に分化するかを調べる。具体的には、側脳室由来脈絡叢上皮細胞を基本培地中で培養した後、神経細胞やグリア細胞への分化誘導培地に交換して培養を続け、最終的に免疫細胞化学染色でβ-tubulinやGFAP等の細胞マーカーを用いて分化を評価する。第四脳室由来脈絡叢上皮細胞との比較も行う。(2) 側脳室および第四脳室由来脈絡叢上皮細胞の培養上清の神経突起伸長に対する効果の違いをラット海馬由来神経細胞初代培養系を用いて検討する。(3) 正常ラットの側脳室と第四脳室の脈絡叢に培養細胞で見られた特徴が実際にあるのかを免疫組織化学的な手法を用いて検討する。(4) 脊髄損傷モデルラットで側脳室と第四脳室の脈絡叢がそれぞれどのように反応するのかを免疫組織化学およびDNA microarray等で解析する。
アプローチを少し変えたことにより今年度遺伝子発現プロファイリングのためのサンプル委託解析を行わなかったことが主な理由である為、次年度以降に同様の目的に使用する予定である。
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