本研究の目的は、種々の栄養因子を含む脳脊髄液を産生している脈絡叢上皮細胞に着目し、脊髄損傷時におこる脈絡叢上皮細胞の応答を調べることで、本来持っている神経の自己再生メカニズムの一端を明らかにすることである。 前年度までには、ラットの側脳室と第四脳室の脈絡叢を採取し、それぞれの脈絡叢上皮細胞の初代培養系を確立し、その性質の違いを明らかにした。簡潔に述べると、側脳室由来の脈絡叢上皮細胞の多くは未分化性は高いが細胞増殖が遅く、一方で、大四脳室由来の脈絡叢上皮細胞は未分化性が低く細胞増殖が速いことがわかった。さらに、正常ラットと脊髄損傷ラットの脈絡叢の解析から、脊髄損傷後にin vivoでも側脳室の脈絡叢上皮細胞で未分化マーカーの発現が高くなることがわかった。 今年度は、脈絡叢上皮細胞の分泌する因子が脊髄損傷に及ぼす影響を明らかにする目的で、圧挫損傷モデルラットに脈絡叢上皮細胞の培養上清(CPEC-CM)を脳脊髄液経由で持続投与し、損傷脊髄の解析を行った。免疫組織化学的な解析の結果、CPEC-CM投与群では脊髄損傷部の再生神経密度が有意に高くなっていた。さらに、再生神経の髄鞘を調べた結果、CPEC-CM投与群で有意に髄鞘密度が高くなっていた。これらのことから、CPEC-CMはこれまでわかっていたニューロンの軸索伸長を促進する作用だけでなく、髄鞘の形成も促進する作用も有していることが明らかになった。再生軸索の髄鞘の一部はシュワン細胞によって形成されることがわかっているので、シュワン細胞の密度を調べた結果、CPEC-CM投与群とコントロール群に差はなかった。このことから、CPEC-CMはシュワン細胞ではなく、オリゴデンドロサイトによる髄鞘形成を促進することが示唆された。現在、組織や細胞培養系でCPEC-CMが実際にオリゴデンドロサイトやその前駆細胞に作用しているかどうか解析中である。
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