研究実績の概要 |
前年度までに、マウス胚のから取得したスペクトルに対する解析を行ってきた。測定データに対して主成分分析(PCA)を行い、卵子成熟に伴う生体分子組成の変化を導出した結果、PC4で時間経過に伴い、大きく2つのデータセットに分かれた。PC4のローディングでは、リン酸に由来するバンドが検出され(980, 1046, 1080 cm-1)、15時間の胚でリン酸濃度が高く、またタンパク質がよりリン酸化されていることを示唆する結果が得られていた。さらに、リン酸由来の2つのピーク(980, 1080 cm-1)が、PC4において逆向きに現れていたことから、今年度はその原因を探るため、リン酸化アミノ酸の液性による変化についての分析を行った。 リン酸化セリンをHClに溶かしてストック溶液を作り、異なる容積のNaOHを加え、最終液量が5 mLになるよう調整した。各サンプルのpHを測定したところ、0.2~12.5で変化した。そのサンプルのラマンスペクトルを取得したところ、液性によって980と1080 cm-1のバンド強度が変化した。980、1080 cm-1のバンドはそれぞれdibasic (-OPO32-)、 monobasic (-OPO3H-)由来のバンドであり、リン酸化セリン水溶液の液性を変化させると、酸性で1080cm-1、アルカリ性では980 cm-1のバンド強度が高くなることが確認できた。つまり、PC4のリン酸バンドの向きから、13時間、15時間の胚では980 cm-1のバンド強度が1080 cm-1に対して相対的に強くなっていることを示している。このことから、過熟胚が酸性に傾いている可能性が示された。
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