研究課題/領域番号 |
17K18270
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
田中 周太 青山学院大学, 理工学部, 助教 (50726841)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 誘導コンプトン散乱 / 実験室宇宙物理学 / パルサー / レーザー実験 |
研究実績の概要 |
私の主な研究対象はパルサーと呼ばれる天体で、高速で回転している強磁場中性子星と考えられている。現在我々の銀河系内に2700以上観測されるパルサーは、その回転に起因して正確なパルスを発する天体として観測される。中性子星は1934年、わずか中性子発見の2年後に理論的には予言された。当初中性子星は、可視光で輝く恒星に比べて高温高密度でコンパクトな天体であるため、X線星として見つかるとされていた。しかし1967年、パルサーの発見は電波天文学によってなされた。パルサーからの電波放射の機構は不明で、それは発見以来の最初にして最大の謎である。中性子星のようなコンパクトな天体から電波を放射するには、非常にコヒーレンスの高い放射機構を考える必要があり、パルサーは天然のレーザー発振器と言える。地上の高強度レーザー実験でパルサー周辺で起こる極限物理現象を検証することが本研究の目的である。 本年度は実験室レーザーを用いた誘導コンプトン散乱に関する論文を投稿し、その論文は受理された。加えて、国立研究開発法人量子科学技術研究機構 関西光科学研究所の施設共用利用課題にJ-KAREN-Pレーザーと呼ばれるレーザーを用いた誘導コンプトン散乱実験で応募した。昨年度の実験は採択されなかったが、本年度の実験が採択された。実験準備はレーザー・プラズマの研究者らと共同で進め、実験は2020年度4月に予定されていたが、コロナウイルスの影響で中止され、実験の再開の見通しは立っていない。また、パルサーの研究に関連して、の相対論磁気流体の乱流による加速に関する論文を執筆し、出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
誘導コンプトン散乱の実験室レーザーを用いた研究に関する論文は受理された。2017年に台湾の国立中央大学のレーザーを用いて行なった初期的な実験について、まず論文にしようと考えている。そのために、実験データの解析も進める必要がある。 関西光科学研究所での実験が本年度初めて採択されたことは重要なステップであるが、コロナウイルスの影響で実験が滞っている。プラズマの反作用などを含めた理論的な研究を進めて、さらにレーザー実験の研究者にも誘導コンプトン散乱の研究を広めることができればと思っている。 一方で、レーザー実験分野の国際会議などでも本研究内容を発表する機会を持てたのは有意義であった。空間分布などを含んだ発展的な数値計算に関して、まだ手をつけられていない。宇宙物理分野の研究も並行しており、それに関する新たな論文出版され、複数の分野で研究する姿勢を保てている。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度に台湾の国立中央大学で行なった実験のデータ解析を進めて、初期成果としての論文を仕上げる。誘導コンプトン散乱により適したセットアップの実験方法を調べる、という理論研究を進める。これまで行なった、もしくは提案した実験は、適切な密度と温度を保ったプラズマにレーザーを集光するというものであった。例えば、対向ビームを用いた誘導コンプトン散乱の実験などを考えて、理論的に得られる結果を予測する。誘導コンプトン散乱はビームの幾何に大きく影響されることが強く示唆されるため、今後の応用にも重要である。 実験研究については、上でも述べたように順調に進んでおり、本年度も続けて大阪大学レーザーエネルギー研究センターの共同利用・共同研究に採択された。また本年度の関西光科学研究所の施設共用利用にも誘導コンプトン散乱の実験で提案者として応募し、採択された。しかし、実験はコロナウイルスの影響で中止されて、再開の目処は立っていない。 今後も実験に向けて実験提案を行なっていく。レーザー・プラズマのコミュニティに関わることで新しい実験施設の情報なども得られており、実験研究についてはまだまだ発展の余地がある。これまでの調子で宇宙物理学に軸足を置きつつも、レーザー・プラズマの研究を進めていこうと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの影響で成果発表を予定していた物理学会(2020年度春)の開催が中止されたため。
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