研究課題/領域番号 |
17K18279
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研究機関 | 帝塚山大学 |
研究代表者 |
寺地 祐介 帝塚山大学, 経済経営学部, 准教授 (30610092)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 空港間競争 / ハブ / 地方路線 / 補助制度 |
研究実績の概要 |
2018年度は,主としてa)空港間価格競争による航空ネットワークの歪みならびにb)効率的なネットワーク形成に向けた政策手段の2つについて研究を行った.まず,a)では,特に各国の主要空港では,乗継旅客の空港利用料が割り引かれているという事実をもとに,そのような区別が経済厚生に与える影響を検証した.分析の結果,ハブ空港が設定する乗継利用料は,スポーク空港との平均距離の減少関数となることが分かった.さらに,現実において,欧州などの一部空港で適用されている発着地別の乗継旅客向け利用料は,経済厚生を改善する可能性がある事が示された.この結果は,Morimoto and Teraji (Journal of International Economic Studies, 2019)にて公表した. b)では,①ハブ空港における航空会社間競争と小需要路線への支援制度の関係ならびに②小需要空港での路線維持政策の評価という2つの点について検討を行った.①については,ハブ空港における競争が存在する状況で,小需要路線への支援制度として,運航に対する直接規制と利用者への補助の2つの政策間で比較を行った.その結果,効率的な政策は小需要路線を運航する航空会社のネットワークに依存し,Point-to-Pointの場合は,直接規制の方が効率的であるのに対し,Hub-Spokeの場合は,利用者への補助が効率的であることが示された.今後は,これらの成果を取りまとめ,学術誌での公表を目指すこととしたい.②については,小需要空港の後背地住民に対する補助制度として,一括補助と従価補助の2つの政策間で,経済厚生にどのような影響をもたらすかを検証した.その結果,従価補助の場合,一括補助に比べ,運賃設定による歪みとして補助を受けられない個人の利用が排除されやすくなる一方で,ハブ空港との直航便は維持されやすいという結論を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度,主として取り扱った研究課題であるa) 空港間価格競争による航空ネットワークの歪みならびにb) 効率的なネットワーク形成に向けた政策手段は,国内の航空政策を考えるうえで重要な論点である.a)については,おおむね順調に進み,学術誌での公表に至った点が評価できると考えている.一方,b)については,2017年度の課題成果の取りまとめと並行しての作業となったこともあり,国際学会での報告はできたものの,研究成果の最終的な取りまとめが遅れ,学術誌への投稿に至らなかった. また,17年度の成果である①乗継旅客市場における空港間価格競争や,②競争関係にある空港間のトリップ需要が存在する状況での空港間価格競争については,昨年度の課題を踏まえる形で再投稿に向けた準備を行ったものの,学術誌での掲載には至らなかった.このため,これら課題については,今年度中の掲載を目標として,研究を進めることとしたい.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度は,すでに一定の成果を得ている①ハブ空港における航空会社間競争と小需要路線への支援制度の関係や②小需要空港での路線維持政策の評価,③乗継旅客市場における空港間価格競争,④競争関係にある空港間のトリップ需要が存在する状況での空港間価格競争の4つの課題について,海外も含めた学術誌での成果公表を目指すこととしたい. また,これらと同時に,2019年度は,「航空会社間競争と均衡ネットワークの歪み」に関連し,複数の航空会社が自由にネットワーク形状を決定できる状況での分権的意思決定について分析を行う.これまでの研究は,単一の航空会社が意思決定を行う状況を主として取り扱っており,複数の航空会社間の競争を導入するという点で,この課題はこれまでの研究の拡張である.具体的には,路線参入にあたり固定費用が発生する下で,航空会社は戦略として個別の路線ごとに参入の有無の2つの選択肢を持つ状況を想定する.このような状況の下では,航空会社は,ネットワークに新たな路線を追加することで,既存路線からの新たな乗継需要を獲得できる.これはネットワーク外部性と呼ばれるが,競争下では,この外部性が過小に評価されることから,航空会社間の競争の下で形成されるネットワークは最適な形状に比べ,小さくなる可能性がある.本課題では,このような枠組みのもと,航空会社間の競争の非効率性について検討を行う.この分析を通じて,これまでの単一航空会社の下での政策介入手法に関する研究における結論が,より一般的なケースでも成立しうるかを検証することが可能となる.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、①11月に予定していた国際学会での報告の取り止めと②一部成果について利用予定であった英文校正の取り止めが挙げられる。 これらを踏まえ,次年度は,次のような形で,研究費の執行を行う.まず,上記の②については,現在複数の論文について,英文校正サービスへの委託準備を始めている状況にある.一方で,本年度も本来予定していた国際学会での報告が,学内業務の都合により参加できないため,京都や大阪などで開催される研究会への積極的に参加するとともに,必要な統計資料等の収集を行うことで,研究成果の価値を高めたい.
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