研究課題/領域番号 |
17K18288
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研究機関 | 広島女学院大学 |
研究代表者 |
関谷 弘毅 広島女学院大学, 人文学部, 准教授 (60759843)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 日本人学校 / 英語学習 / 中国語学習 / 学習ビリーフ / 学習ストラテジー / 転移 / 第二言語環境 / 外国語環境 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は以下の通りであった。①上海日本人学校の高校生が中国語(第二言語)及び英語(外国語)に対して持つ学習ビリーフ,学習ストラテジーの変化を量的,質的な観点から縦断的に調査する。②日々中国語に接することにより形成されると予想される好ましい学習ビリーフ,学習ストラテジーを英語学習に転移させる介入法を提案したうえで,その効果を検討する。
①に関して,上海日本人学校高等部で質問紙調査を実施した。104名の生徒に対して質問紙調査を行い,中国での滞在月数に加え,学習ビリーフの3因子,「コミュニカティブな現代志向」「伝統志向」「外国語学習の適性と難しさ」と,学習方略の5因子,「記憶・認知」「補償」「メタ認知」「情意」「社会」に関して,それぞれ英語と中国語に対して尋ね,5件法によって測定した。2つの重回帰分析の結果,英語の学習方略の使用は,英語に対する「コミュニカティブな現代志向」が直接影響を与えるほか,中国語に対する「コミュニカティブな現代志向」が中国語の学習方略を媒介して影響を与えることが明らかになった。このことから,日本語を母語とする高校生が中国語を第二言語環境の中で使用・学習することによって形成される学習ビリーフが,中国語に対する学習方略の使用を通して英語に対する学習方略の使用に転移することが示唆された。 ②に関して,大学生を対象に予備的な検討という位置づけで昨年度に提案した,チーム基盤型学習 (TBL) 形式の指導法にさらに改良を加えた。質的な検討を発話の具体例に基づき概念やカテゴリーを再検討し,関係性を再整理して「TBL型授業におけるグループワーク機能の関連図 ver. 2」を作成し,学習プロセスに関するより深い示唆を得た。また,役割を付与することによってフリーライダーが出現しにくくなること,概念理解がさらに促進されることが発話の分析から示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①予定通りに進行した点:予定通りに,2018年9月に上海日本人学校高等部で中国語と英語に対して持つ学習ビリーフと学習ストラテジーについて尋ねる質問紙調査を実施した。
②予定以上に進行した点:最終的な目標である,学習ビリーフ,学習ストラテジーを英語学習に転移させる介入法を提案するため,あらかじめ介入法の候補を準備することが必要である。前年度の結果を踏まえ,介入法をさらに改善し,大学生を対象にその効果を検討した。計画段階では2年目から始める予定であったが,実際には2年目終了時点で改良後の効果検証まで行うことができた。
③予定通りに進行しなかった点:調査協力校である上海日本人学校高等部でインタビュー調査を行い,質的な分析を進める予定であったが,当方の都合から実施することが困難であることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,質問紙調査の結果を1年目,2年目のものと統合的に分析し,さらにインタビューによってより詳細な時系列的なプロセスへの示唆を得ることが目標である。また,第二言語に対して持つ好ましい学習ビリーフ,ストラテジーの転移を促す介入法の提案を試みる。具体的には以下に示す計画を進め,メカニズムの解明及び介入法の提案への糸口を得ることを目指す。
①質問紙調査:調査対象,調査項目,調査方法は原則1年目,および2年目のものと同じである。分析は時間要因を加えた分析を用いる。ただし,これまでの質問紙調査ではとらえきれない内容が確認された場合,新たに項目を加えて改良する。 ②インタビュー:対象を現役の日本人学校高等部の生徒ではなく,帰国した卒業生の追跡調査に切り替える。こうすることにより,彼らの中国での経験がその後長い期間にわたってどのような影響を与えたのかを検討することができ,より有意義であると考えられる。対象に半構造化面接を実施し,質問紙調査の学習ビリーフのそれぞれの項目に関して,「なぜそのように考えるようになったのか」,学習ストラテジーのそれぞれの項目に関して,「なぜそのような方法を使うようになったのか」という問いを両言語に関して行う。目的は普段の言語(英語,中国語)の使用・学習がどのように現在所持,使用する学習ビリーフ,ストラテジーを形成したかを探ることである。分析はキーワードを抽出して解析を進める。 ③介入法の予備実験:①や②の結果,及びこれまでの介入法の検討結果を踏まえ,第二言語(中国語)に関して持つ好ましい学習ビリーフ,ストラテジーを外国語(英語)に転移させる介入法を開発し,事前事後デザインにより効果測定し改良への示唆を得る。これまでの検討で効果が実証されたTBLを応用する方向を考えたい。
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