研究課題/領域番号 |
17K18289
|
研究機関 | 安田女子大学 |
研究代表者 |
羽鳥 勇太 安田女子大学, 薬学部, 講師 (00759730)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | グルタチオン / 過酸化水素 / レドックス / 酸化還元センサー / ライブセルイメージング / 炎症 / 酸化ストレス / ストレス応答 |
研究実績の概要 |
本研究では、炎症と酸化ストレスの関連を明らかにすることを目的として、細胞内レドックス環境の新規解析ツールの開発を進めている。これまでGFPをベースとして、多様なH2O2センサーおよびグルタチオン酸化センサーが開発されてきたが、細胞質内での自由拡散の為に十分な空間分解能が得られていなかった。そこで本研究では、現行のH2O2センサー(roGFP2-Orp1)およびグルタチオン酸化センサー(Grx1-roGFP2)にパルミトイル化配列を導入し、生体膜に細胞質側からセンサーを係留することを試み、自由拡散の問題の解消を図った。パルミトイル化グルタチオン酸化センサーをHeLa細胞で発現したところ、センサーは細胞膜や小胞の生体膜の細胞質側に正確にターゲティングされ、グルタチオン酸化・H2O2に対して良好な反応性を示した。この新規センサーを用いて通常培養条件下における細胞内グルタチオン酸化・H2O2動態を解析した結果、一部の小胞の生体膜近傍において高度のグルタチオン酸化・H2O2産生が検出された。これまで、細胞質は恒常的に還元的な状態に維持されていると考えられてきたが、本研究の結果はその認識に検討の余地があることを明確に示すものであった。以上の成果は、Redox Biology誌14号679頁(2018年)に掲載され、その成果の一部を8th International Congress on Stress Response in Biolgoy & Medicine (Finland, Truku)および2017年度生命科学系学会合同年次大会(神戸)で発表した。また、本研究で開発したパルミトイル化グルタチオン酸化センサーおよびH2O2センサーは広く海外研究機関(米国Boston Children's Hospitalなど)に対して供与するなど、当該研究分野への貢献を果たしている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の成果の一部は既に論文(Redox Biology誌14号679頁)として発表されている。研究計画書に従って複数の生体膜標的型センサーの作成を進めており、そのうち細胞膜局在型、中間径フィラメント局在型、ペルオキシソーム局在型、ゴルジ体局在型の作成は完了している。その中で、ゴルジ体局在型センサーを用いた実験から、ゴルジ体生体膜で特異的に、且つ、高度のグルタチオン酸化が起こっていることが判明した。引き続き、まだ未完成の生体膜局在型センサーについても作成を進めている。 作成したセンサーを導入して解析を行う対象として、THP-1細胞およびCaco-2細胞を使用する予定である。THP-1細胞については、ホルボールエステル処理によるマクロファージへの分化誘導を実施するが、分化誘導条件については既に検討済である。また、Caco-2細胞についても、分化誘導条件検討(トランスウェル上での培養)および分化段階の評価(経上皮抵抗値の測定とアルカリフォスファターゼ活性測定)などを実施済である。以上の進捗は概ね研究計画書に示した予定に沿っており、進展は順調であると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
ゴルジ体局在型センサーを用いた実験より、ゴルジ体生体膜上における高度のグルタチオン酸化が明らかになった。今後、他の生体膜局在型センサーについても作成を進める一方、ゴルジ体局在タンパク質の酸化修飾についても検討を進めるべきであるとの考えに至った。このような着想のもと、本学に新たに導入されたMALDI-TOFを利用してゴルジ体タンパク質の酸化修飾について網羅的な解析を行うことを予定している。これにより、細胞内のグルタチオン酸化の時空間パターンおよびH2O2動態が明らかになるだけでなく、それがゴルジ体上のどのようなタンパク質に影響を及ぼすかが明確になると期待される。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、1年目に酸化還元センサーの作成を行い、2年目にセンサーを用いた解析および成果発表を行うものとして研究計画を立てている。その為、平成30年度に必要な経費として、解析に要する消耗品のコストと、論文掲載料を計上している。
|