細胞内におけるH2O2の局所生成、および、酸化シグナル生成に伴うグルタチオン酸化について時空間解析を可能とする為に、生体膜局在型H2O2センサー、グルタチオン酸化センサーの開発を行い、消化管炎症と細胞内酸化還元環境の相関について検討した。 作成したセンサーは反応性、局在ともに良好な結果を示し、実際にライブセルイメージングによる時空間解析を行い、この点の研究目標は十分に達成された。本解析により、細胞質内でのH2O2生成とグルタチオン酸化はともに、局所的な反応として進行し、両シグナルの空間分布が細胞質内で高度の不均一性を有することが初めて明らかになった。上記の成果はRedox Biology誌(2018)に掲載された。 さらにセンサーを特定のオルガネラ膜にターゲティングすることを目指し、コンストラクトを複数作成し、この点について概ね計画は完了した。作成したセンサーの反応性と局在を検討した結果、共に良好な特性が認められたのは中間径フィラメントおよび小胞体膜局在型センサーのみであった。これらのセンサーについては、予備実験としてHeLa細胞での解析を完了しており、細胞周辺部(細胞膜付近)よりも細胞深部(内部)の方がより酸化レベルが高いことが明らかになった(成果発表準備中)。その他のセンサーについてはコンストラクトを再設計しなおし、特性の確認を進めている。 センサーの消化管炎症モデルへの導入にあたっては、センサーの長期発現が培養腸上皮細胞の分化能に与える影響が懸念される結果が得られた。その為、計画を修正して誘導型発現ベクターへの系の切り替えを行い、既に系の確立を完了している。今後、新たに確立した発現系を用い、消化管炎症モデルにおけるH2O2とグルタチオン酸化の時空間解析を行う予定である。
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