エクソソームは血液などの体液に含まれる直径40-150 nmの脂質二重膜の小胞である。近年、疼痛時の血中エクソソームに存在する物質が、疼痛強度の指標となることが示唆されている。しかし、エクソソームと疼痛発症および疼痛強度の増強との関連性は不明であった。我々はこれまでに、神経障害性疼痛モデルの坐骨神経部分結紮 (Partial sciatic nerve ligation: PSL) マウスを用い、PSLマウス血清由来エクソソームの侵害刺激行動に対する影響を検討した。その結果、現在までにエクソソームは侵害刺激行動の発症過程に関与しないこと、およびPSLマウス血清由来のエクソソームは、偽手術群と比較し低濃度ホルマリン誘発性侵害刺激行動に対して有意な時間延長を認めることを明らかとした。 そこで本研究では、PSLマウスのエクソソームに着目し、疼痛強度を増強させる因子を同定することを目的とした。 その結果、血清エクソソームの二重膜上に発現する膜タンパク質をトリプシンにて削いだ“shaved” エクソソームにおいては、疼痛強度の悪化が引き起こされないことを明らかとした。現在、エクソソーム二重膜上の膜タンパク質の同定を試みている最中であるが、完全な同定には至っていないのが現状である。 因子の同定が現在まで実現していない背景には、血清から超遠心法のみにより回収したエクソソームには回収量が多い反面、夾雑物が多い問題が挙げられた。そこで、超遠心法による粗精製の後、サイズ排除型クロマトグラフィーを用い粒子径ごとに分画することで、夾雑物を減らすことに成功した。したがって、現在エクソソーム二重膜上のタンパク質のペプチドライブラリーを構築し、構築したライブラリーを用いて質量分析法にて解析することで、因子を同定している最中である。
|