本研究では,首元で簡単に使用できる完全ウェアラブル型熱中症予防システムの開発を目的とする。環境情報並びにバイタル情報を融合させることで,暑さ指数WBGTに基づく熱中症の重症度を検出し,頸動脈の冷却を行い,医療機関から適切なアドバイスが受けられるシステムを構築する。2021年度を含み,研究期間全体を通じで実施した研究成果は以下の通りである。 (1)ウェアラブル型熱中症予防システムの設計開発では,頸部で体温(最大許容誤差±0.05℃の高精度)および脈波並びに環境情報を無拘束で取得できるセンサを集積化したデバイスを試作して,環境温度±1.0℃および湿度±3.0%の精度で測定できることを確認し,無線モジュールによる連続モニタリングシステムを構築した。 (2)熱中症診断に活用できる血圧の推定方法の提案では,右頸部-右指尖動脈波伝搬速度を算出し,臨床データに基づいた平均血圧との相関関数に適応することで,脈波振幅から血圧を試算した。結果として,安静時における平均血圧,拡張期および収縮期血圧値を,カフレス血圧計のIEEE標準規格である平均絶対誤差MAD=7mmHg以下で推定できた。 (3)熱中症予防の指標に推奨されているWBGTの推定方法の提案では,まず,WBGT計測に必要な湿球温度を算出するためにJIS規格にもとづいた気温と湿度をパラメータとする三次項モデルを作成し,地域に限定されない独自の二要素モデルへ発展させた。結果として,MAD=0.69℃以内で推定でき,気象庁のデータに頼ることなく提案デバイスでWBGTを連続計測できることを示した。 (4)冷却機能の有効性検証では,頸部への冷却有無による脈拍数の安定性について比較した。結果として,運動負荷後の脈拍数低下を表す指数関数の時定数を比較すると,冷却する方が有意に低下することが示されたため,冷却機能は熱中症予防に有効であることが示唆された。
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