日常生活を豊かにする地域の小さな土木のデザインはどうあるべきか。本研究は、地域の公共施設が急速に近代化するとともに日常のデザインが花開いた大正~昭和初期に着目し、同時代に竣工した地域橋梁のデザイン思想を明らかにしたものである。加えて、同時代のデザインを保存・利活用し、現代社会の日常を豊かにする小さな土木のデザイン手法について、ケーススタディを通して考察した。 【1.現存する橋梁の現地調査】九州地方に現存する大正~昭和初期橋梁のデザイン・サーベイ調査を実施し、形状およびデザインの特徴を記録した。対象は橋上の構成要素である親柱、高欄、袖柱、中柱、塔柱とし、正面、左右、上下の各方向より記録写真を撮影し、各部位の造形を詳細に実測、記録した。【2.文献調査】同時代の地域橋梁が確認できる文献を探索し、土木研究所、地域の個人・建設会社が所有する古写真、図面資料を収集した。【3.意匠分析】上記調査をもとにデザインを分類し、橋梁単体における親柱・高欄と橋桁・橋脚の意匠統一性、同一路線や同一河川等架橋位置による線的な意匠の統一性、および、同時代の主要施設を中心とした面的なデザインの階層性を明らかにし、デザイン思想のキーとなる事例を抽出した。【4.詳細調査】抽出した事例を対象に、地域史を対象とした文献調査、および地域の古老や郷土史家を対象としたオーラル・ヒストリー調査を実施した。デザイン思想に関する直接的な証言は得られなかったが、同時代の対象地域の社会情勢、時代気分に照らし、橋梁のデザイン思想を考察した。【5.保存・利活用検証】解体される同時代の橋梁を対象に、親柱・高欄を保存・利活用した公共空間整備のケーススタディを実施し、地域の生活風景の豊かさに資する小さな土木のデザイン手法を考察した。
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