昨年度行った現役保育者を対象にした調査から、絵本を活用して多文化共生意識を育てるための試みが比較的多く行われていることが示された。しかし、これまで幼児を対象にした先行研究では、絵本などの物語を活用した取り組みの有効性は確認されていない。その理由として、Johnson & Aboud (2017)は、幼児が物語を読む大人も自分と同じように外集団に対してバイアスを持っていると考え、物語に描かれるアンチバイアスメッセージを曲解している可能性を指摘している。Allport(1954)は、異なる集団が接触によって友好的関係を築くには4つの条件を満たす必要があるとしており、その1つに制度的支持(法律や権威者によって接触が推奨されている)を挙げている。物語内で制度的支持を明確に示すことで、Johnson & Aboud (2017)が指摘した子どもたちの誤解を解消することが期待される。 そこで本年度は、Allportの4条件を取り入れた絵本を制作し、現役保育者・放課後児童支援員に実際に子どもたちの前で読み聞かせをしてもらい、その評価を調査によって求めた。その結果、子どもたちが読み聞かせに夢中になっていたという肯定的な評価が8割の回答者から得られた。一方で、読み聞かせ後の子どもたちの変化について、「外国や外国にルーツを持つ人に対する興味関心が高まった」「外国にルーツを持つ人との関わり方が変わった」という評価はほとんど得られなかった。その理由として、今回の絵本の題材が直接的に外国にルーツのある人と日本の子どもとの関係を描いていなかったため、子どもたちには外国にルーツがある人とも仲良くしようというメッセージが伝わらなかったことが考えられる。今後、より幼児が理解しやすいように改善を加え、実際に絵本の読み聞かせ後に子どもたちの多文化共生意識に変化が見られるかどうか実証的に検討することが必要である。
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